【第2回】重慶便り

折勝家鴨(「鷹」同人)


武漢封鎖の2020年1月23日、武漢から直線距離754キロの重慶に赴任中だった夫はお気楽に日本への春節休暇の飛行機にいた。帰宅してもいたって他人事。そう武漢の狂騒と反して重慶は大都市の割に感染者がほぼいない状態だったのだ。会社全体の休暇が1週間延長されたときですら、それならもう少しゆっくりと日本にいようかと本人は考えていたようだった。妻から仕事をしたいのなら今中国へ向かわないと入国できなくなると背中を押され夫は中国へ。今から思えばその時期が中国に居残る日本人と帰国する駐在者の分かれめだったと思う。

そうやって帰国した夫に2週間の隔離が始まった。マンションの入り口にはガードマンが立ち、街のいたるところに兵士が立つ。まあ元々地下鉄などの改札には兵士が立っているので日本人が思うよりは身近な風景かもしれない。その同時期に日本政府は日本人の帰国(自費)を呼びかけ、それに応じて帰国した人が多い。結果論だが、その後駐在のビザが無効になりしばらく日本帰国の駐在員は身動きが取れないことになる。さて、妻が背中を押して戻した夫は2週間隔離を終えたがそのまま会社再開は延期となってしまった。こういうところは皆が想像している通り強権発動である。ただ文字どうり全てを止めたことにより不平等感が無かったことが皮肉にも安心に繋がっていったのは不幸中の幸いだったのかも。

コロナ前から個人情報もアプリから管理されていたが、この時期にはマンションから外出するときにもアプリを操作し、スーパーの入り口でもアプリを操作をしないと中へはいれない状態になる。元々電子マネーのQRコードが屋台にも物乞いにも浸透しているのは驚くほど。ひとりで街を歩き買物をするときにも旅行者である私は必ず現金かカードが使える店を探さなければならなかった。もう現金はおろかカード支払いすら拒否するスーパーも出現している。その履歴が今回のコロナ騒動で抜群の威力を発揮したことになる。

ひとり感染者が出れば、彼の(彼女の)行動履歴が店への入店時間やバス乗車何時何分まで白日にさらされる。スマホ決済のデータがコロナ感染者のデータバンクに繋がり瞬時に歩行記録としてアップされ共有される。またひとりひとりが健康カードなるものをアプリ登録しGPSによりコロナ危険地域に侵入した場合、緑が黄色に変化するようなシステムを導入。一カ月後には重慶の街自体がほぼレストランをのぞいて元のようになり、のちに持ち帰り食事、そしてレストランと順を追って全面的に営業を開始。いまでは日本では後ろ指をさされそうな宴会がおおっぴらに開けるようになっている。

13年ほど前の広州赴任時は赤信号で止まる車は半分ほどだった。後ろの車が止まらないような時にはこちらも止まれば危ない、そんな状態だったのに。そして日本人の中国への意識はその時のまま止まっているようにも思う。

2021年1月2日の重慶の街並み。ちなみに重慶市は、人口は3000万人以上のメガシティ。

例年は12月31日は解放碑周辺の繁華街が華やかになるし1月1日は華やかになるのだが今年はこちらもひっそり。ただ政府からはクリスマス(西洋の行事だから)と春節は静かにとの指示がでていただけで自主的にということかもしれないそうだ。画像は今年の1月2日の街。重慶は元々コロナ前にも大都市の割に日本人が少ない街で350人ほど。日本人はほぼ単身赴任者の街である。日本人学校や補習校がないので妻子帯同がなかなかできないこともある。そのわりに見知ったセブンイレブンやローソン(特にローソンが人気、中国人にあの青色がいいみたい)、すき家、ユニクロ、無印良品(ダイソーは撤退)などもある。自転車は少なく、車が95パーセント、残りは電動バイク、どちらもかなり運転は荒いので地下鉄の方が快適かも。

地下鉄には兵士が立ち荷物チェックがあるが、慣れたら簡単だし早いし違和感もなくなる。

こういうことが日常になると精神的自由と不自由は曖昧になるのかも。

画像は居酒屋のお節。それなりに正月気分は楽しんでいるらしい。

こちらはレジがないスーパー。旅行者の私単独ではハードルが高かった。

ちなみにすき家(吉野家は撤退)

現在ビジネスマン入国が緩和されている日本と違い、中国は帰国者に2週間隔離を義務づけている。義務というより強制的に空港からバスで指定ホテルへの強制隔離。同じ飛行機の搭乗者でも違うホテルの可能性すらある。2週間が終わったらホテルのフロントで解散である。この2週間隔離がなくならない限り簡単に休暇で帰国はできないかな。

【「タビハイ」次回は2月25日、ローゼン千津さんです】


【執筆者プロフィール】
折勝家鴨(おりかつ・あひる)
1962年生まれ横浜在住。現在夫は二度目の中国・重慶での単身赴任中。俳句は2003年鷹俳句会入会、藤田湘子、小川軽舟に師事。2008年鷹俳句会同人、2012年鷹新葉賞受賞。現在事業部長兼東京句会部長。2017年句集「ログイン・パスワード」上梓。俳人協会員。


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