【第1回石田波郷新人賞】西村麒麟「静かな朝」(20句)

静かな朝
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西村麒麟


江ノ電に綺麗な梅雨のありにけり

貝の上に蟹の世界のいくさかな

初めての土地たくさんの夏燕

びつしりと魚を干して南風

座布団の涼しく並ぶ宿屋かな

夏の果さつと出て来る漁師飯

冷静に蠅を打ちたる女かな

東京へ再び青き山抜けて

立秋や金魚にも名を付けやらん

初めての趣味に瓢箪集めとは

八方は海や静かに赤とんぼ

桔梗のつぼみは星を吐きさうな

傷の無き秋の燕の翼かな

とびつきり静かな朝や小鳥来る

秋蝶のひらひらとまた海の方

抜け目なく星の流るる様を見つ

こほろぎの道やゆつくり考へる

母よりも先に目覚めて曼珠沙華

色鳥を障子の部屋に遊ばせて

また結婚案内状や栗をむく

(出典:第1回石田波郷俳句大会作品集、2009年)


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