静かな朝
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西村麒麟
江ノ電に綺麗な梅雨のありにけり
貝の上に蟹の世界のいくさかな
初めての土地たくさんの夏燕
びつしりと魚を干して南風
座布団の涼しく並ぶ宿屋かな
夏の果さつと出て来る漁師飯
冷静に蠅を打ちたる女かな
東京へ再び青き山抜けて
立秋や金魚にも名を付けやらん
初めての趣味に瓢箪集めとは
八方は海や静かに赤とんぼ
桔梗のつぼみは星を吐きさうな
傷の無き秋の燕の翼かな
とびつきり静かな朝や小鳥来る
秋蝶のひらひらとまた海の方
抜け目なく星の流るる様を見つ
こほろぎの道やゆつくり考へる
母よりも先に目覚めて曼珠沙華
色鳥を障子の部屋に遊ばせて
また結婚案内状や栗をむく
(出典:第1回石田波郷俳句大会作品集、2009年)