【第2回石田波郷新人賞】小野あらた「白磁の中」(20句)

白磁の中
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小野あらた


海老の足きれいにもげる淑気かな

それぞれの顔に等しく初明り

初旅や畦くつきりと交はりぬ

腕時計の銀重さうな霜夜かな

イヤホンに熱の籠もれる風邪心地

春めくや白磁の中のほの明し

やはらかく開くおしぼり草青む

囀や林のふつと深まりぬ

磯遊びサンダルのいろ散らばれり

花冷えのホースに溜まる暗き水

サイダーの氷の穴に残りをり

葉脈の一本ほつれ落し文

夏シャツの肩の揃へて干されけり

蜘蛛の子の縺れてしまふ一歩かな

扇風機羽根の光の震へをり

八月の油絵の海乾きけり

一塊の草の暮れたるきりぎりす

東屋の腰掛に傷薄原

天高し鉄橋の弧の交はりぬ

ふりかけの魚の固きそぞろ寒

(出典:第2回石田波郷俳句大会作品集、2010年)


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