パン・ペルデュ

Pain perdu


私たち日本人の主食は米ですが、フランス人の主食はパン。中でもバゲットは生活必需品として、法律で価格も一定に抑えられています。
わたしの住んでいた通りのパン屋さんは、日曜は午前のみ営業だったので、朝ご近所さんたちが一日の食事用のバゲットを買い込み、4本も5本も抱えて帰っていました。

が、しかし。
米と違ってバゲットは、保存がきかない。
日本のようにビニル袋が付いてきたりもしないので、その日のうちに食べきらなければ、翌日にはカチカチです。

余ったバゲットでつくるパン・ペルデュ。日本ではフレンチトーストと呼ばれますね。
一晩経ってしまったバゲットは、そのままではとうてい食べられない固さ。それを牛乳と卵に浸して、柔らかくしてから焼くのです。
パン・ペルデュ(Pain perdu)は「失われたパン」という意味。捨てるしかないような固いパンを工夫して食べるという、ちょっと貧乏くさい響きの名前ですが、バターとお砂糖の焼ける匂いが郷愁をそそる、昔ながらの家庭のおやつです。

バゲットが余ったら、まだ柔らかいうちに厚く切っておきます(固くなってしまってからでは切るのも大変)。
翌日、牛乳・生クリーム・バニラ少々を加えた卵液に浸して、バターをたっぷり熱したフライパンで焼きます。
わたしは卵液は甘くしないのが好き。片面を焼いてひっくり返してから、砂糖を振りかけ、フライパンごとオーブンでパリッと焼き上げます。

余ったバゲットの利用法はほかにも、油で揚げてクルトンにしたり、にんにくと炒めてスープにしたり。
当時のご近所さんには、ポリ袋に溜めておいて、公園の鴨にやりに行くというおじいちゃんおばあちゃんも多かったですが、昨今はそういうことも憚られることでしょうね。

貧乏に匂ひありけり立葵  小澤 實

季語【立葵】

*本記事は野崎海芋さんのInstagram( @kaiunozaki )より、ご本人の許可を得て、転載させていただいております。本家インスタもぜひご覧ください。


【執筆者プロフィール】
野崎 海芋(のざき・かいう)
フランス家庭料理教室を主宰。 「澤」俳句会同人、小澤實に師事。平成20年澤新人賞受賞。平成29年第一句集『浮上』上梓。俳人協会会員。



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