【第3回石田波郷新人賞】涼野海音「晩夏」(20句)

晩夏
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涼野海音


野遊のしばらく黙りゐる二人

終点に石鎚山や建国日

卒業の日の噴水の高さかな
  
旅人は帰らず桜咲きにけり

夏立ちぬ木に吊られたるヘルメット

青梅の落ちたる草のそよぎをり

土つきしかかと入りゆく茅の輪かな

短夜の誰もつかはぬ帽子掛

薔薇園の入口濡れてゐたりけり

剥製の鷲の羽根落つ晩夏かな

どの家も灯つてゐたる桐一葉

鳥渡る立体駐車場しづか

水澄みて小さき文字の手紙かな

地球儀の海を回してゐる月夜

風花や空手道場より声す

タクシーを洗ふ水音冬木の芽

見上げゐる聖樹の枝の雫かな

古暦丸めて空をみてゐる子

明日会ふ人に賀状を書いてをり

  初日さす砂場に小さき山のあり

(出典:第3回石田波郷俳句大会作品集、2011年)


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