晩夏
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涼野海音
野遊のしばらく黙りゐる二人
終点に石鎚山や建国日
卒業の日の噴水の高さかな
旅人は帰らず桜咲きにけり
夏立ちぬ木に吊られたるヘルメット
青梅の落ちたる草のそよぎをり
土つきしかかと入りゆく茅の輪かな
短夜の誰もつかはぬ帽子掛
薔薇園の入口濡れてゐたりけり
剥製の鷲の羽根落つ晩夏かな
どの家も灯つてゐたる桐一葉
鳥渡る立体駐車場しづか
水澄みて小さき文字の手紙かな
地球儀の海を回してゐる月夜
風花や空手道場より声す
タクシーを洗ふ水音冬木の芽
見上げゐる聖樹の枝の雫かな
古暦丸めて空をみてゐる子
明日会ふ人に賀状を書いてをり
初日さす砂場に小さき山のあり
(出典:第3回石田波郷俳句大会作品集、2011年)