俳人で文芸評論家の仁平勝氏による久々の俳論集。
評論というと暑苦しいイメージがあるが、仁平勝の文章は、涼しい。大きく戸のあいた夏座敷の畳の上に扇がひとつあれば、事足りる。そんな涼しさだ。まえがきのところで、愛読書のひとつに高島俊男の『お言葉ですが…』シリーズがある、と書いてある。さもありなん、といった具合である。
仁平には講談社現代新書に『俳句をつくろう』(2000年)が入っているが、新書版での刊行はおそらくそれ以来。しかし「入門書」というよりは、彼の俳論のエッセンスが詰まった一般書である。一見、「軽く書き流した」ように見えるが、それは文体のリズムの所為であって、実質的には、集大成という趣である。
ここに収められていない仁平の文章は、存外、多い。しかし「集大成」であるからして、かなりの「省略」を効かせて、一冊をコンパクトな新書として編んでみせたところが、仁平の涼しさなのである。
2011年に『俳句』に連載されていた「定型の成熟と喪失」は、いまだ本となっていない文章の代表的なものである。わたしはこの連載が本になっていないことに、たびたび恨み節を重ねてきたけれど、さいわい、本書の後半には、この連載をアップデート/整理した(俳誌「都市」での)連載が収められている。2018年から2019年にかけての連載であり、多くの読者はこれに触れられなかったはずだから(わたしもそのひとりだ)、有難いことである。
仁平の論は、一言でいえば、高山れおなが『切字と切れ』で示したような「平成の夢」に別れを告げるようなもので、いいかえれば、メディア的にいえば、夏井いつきに代表されるような「切れ」を要件とするような俳句の作り方に、ノンを突きつけるものである。本人は、そんなことを書いたところで「黙殺される」と書いているが、それは謙遜というものであろう。
仁平勝『俳句の立ち話』(朔出版、2025年)
価格 1650円(税込)
新書判ソフトカバー 136頁
ISBN 978-4-911090-29-9