火葬場を出ると、瑞々しい木々から少し強めの風が吹く。小説であれば、ああでもない、こうでもないと内面をまどろっこしく描写できるのだろうが、俳句では「みぞおち」とだけ言うのみ。「みぞおち」は、胸と腹のちょうどあいだ、身体のちょうど中央にある。大切な人がこの世からいなくなった欠如感が、この部位に感じられるわずかな痛みと照応している。「俳句界」2019年3月号より。(堀切克洋)
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】
抱きしめてもらへぬ春の魚では …
古池やにとんだ蛙で蜘蛛るTEL…
土のこと水のこと聞き苗を買ふ …
浜風のほどよき強さ白子干す 橋…
春の夢魚からもらふ首飾り 井上…
飛んでゐる蝶にいつより蜂の影 …