神保町に銀漢亭があったころ【第25回】山崎祐子

やあ、どうもどうも

山崎祐子(「りいの」「絵空」同人)

初めて銀漢亭を訪ねたのは2010年の12月。

少し前に、超結社の句会で伊那男さんと知り合ったのが縁の始まりだった。そこでお店のことを知り、父兄同伴ではなく息子同伴で、銀漢亭を訪ねたのである。

遅い時間であったせいか、この夜は先客も私たちと入れ替わるように帰ってしまった。伊那男さんのトークも楽しく、親子で長い時間気持ちよく飲んだ。

二回目はクリスマス。前回、長居してしまったお詫びをと、少しだけ立ち寄るつもりだったのだけれど、それが強烈な夜となった。

前回の印象とは全く違い、次々と人が集まり、喧噪の坩堝。サンタクロースの赤い帽子は手渡され、わからないうちに巻き込まれた。

私にとっては初対面の方ばかりなのだが、「やあ、どうもどうも」ですんでしまう不思議な人たちに囲まれた。

乾杯すれば、皆、友達のような雰囲気。実は、私の人生で、一人で飲みに行くというのは、このクリスマスが初めての経験。

あんなに緊張してドアノブに手をかけたのは何だったのか。しかし、おかげさまで、その後の人生がどれだけ豊かになったことか。感謝しかない。

私は仕事帰りに銀漢亭に寄ることが多く、割と早い時間に行く。まだ早過ぎるかなあと思って扉を開けると、常連の早番の先客がいることがしばしば。

早く帰るつもりが、お姉様やおじさま方と話し込んで最後までいることもしばしば。飲んでいるときに誘われ「行く、行く」ということになり、吟行なのかすらわからないのに加わったことも複数。これがまた飛びっ切り楽しいものばかり。

カウンターで飲んでいる人の後ろを、身を細くしてすり抜けていく。「やあ、どうもどうも」という声が今でも聞こえてくるようだ。誰の声だったのか、わかるような、わからないような。でも、それが銀漢亭なのだ。


【執筆者プロフィール】
山崎祐子(やまざき・ゆうこ)
年齢不詳。平成2年「風」同人。「風」終刊後「万象」を経て、現在「りいの」「絵空」同人。句集『点睛』(第28回俳人協会新人賞)、『葉脈図』


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