【秋の季語=仲秋(9月)】穴惑

秋の蛇」が「秋彼岸」をすぎても穴にはいらず、地上に残っていること。

「穴惑ひ」と「ひ」を送ることもある。

セクト・ポクリットの「ハイクノミカタ」シーズン1、橋本直さんが竹中宏の〈大いなる梵字のもつれ穴まどひ〉を取り上げたときのことを参照。歳時記の解説のなかには、「数匹から数十匹がどこからともなく集まり一つ穴に入り、からみあって冬を越す。彼岸すぎても穴に入らないものを穴惑いという」というような内容のことが、しばしば書かれているが、しかしこれは出典不明のあやしい話なのではないか、とのこと。調べてみると、蛇は単独で「冬眠」していることも多いようです。

言葉としては、蛇穴に入る」のほうが古いようで、たとえば、江戸後期の馬琴編・青嵐補「俳諧歳時記栞草」には載っています。明治期のわりと早い時期にはすでに「穴惑」が季語として使われはじめた(あるいはそれに反対意見が出されていた)ということはあったようなのですが、いきさつはやや不明。誰かご存知の方がいたら、ぜひご一報ください。


【穴惑(上五)】
穴惑ひ縞美しと嘆く間に 山口誓子
穴まどひ身の紅鱗をなげきけり 橋本多佳子
穴惑顧みすれば居ずなんぬ 阿波野青畝
穴惑よけて通りし足使ひ 高濱年尾
穴惑刃の如く若かりき 飯島晴子
穴惑ばらの刺繍を身につけて 田中裕明
穴惑この家吉事つづきけり 宇多喜代子
穴まどひ伊勢神宮の裏が好き 大木あまり
穴惑バックミラーに動きをり 稲畑汀子
穴惑さほど惑はぬ態で消ゆ 谷口いづみ
穴まどひ上野は遠くなりにけり 中西亮太

【穴惑(中七)】

【穴惑(下五)】
樋竹をのたりあるくや穴惑  都雀
金色の尾を見られつつ穴惑 竹下しづの女
風ならぬ笹の乾き音穴惑 石川桂郎
落日の黒き残像穴まどひ 本郷昭雄
宇陀の山みな見ゆる日の穴惑 大峯あきら
いつよりか箪笥のずれて穴惑 柿本多映
東大寺大仏殿裏穴惑 橋本榮治
楸邨も草田男も亡し穴惑 橋本榮治
うしろより大きな雲や穴まどひ 榎本文代
きのふけふ同じところに穴惑 島田一枝
飛石の三つ目にゐる穴惑 染谷秀雄
草ゆらしゆける頭や穴惑ひ 山西雅子
大いなる梵字のもつれ穴まどひ 竹中宏
眼のまはり鱗大きく穴惑 岸本尚毅



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