【冬の季語】おでん

【冬の季語=三冬(11〜1月)】おでん

平安時代に田楽(でんがく)という芸能があった。音楽に合わせて舞踏したり曲芸を披露するもので、鎌倉時代には演劇化されて田楽能となる。田楽能はいまもつづく能の成立に影響を与えている。

田楽の曲芸には、二本の棒の上に一方の横木をはめた高足(たかあし)に乗って飛び跳ねる芸があったらしい。これが味噌をぬった豆腐に串を刺して焼いた料理――田楽豆腐の語源になったといわれている。見た目が似ていたのだろう。田楽豆腐の調理法は豆腐以外にまで広がり、田楽焼き、煮込み田楽などが生まれた。

なぜ長々と田楽の話をしたのかというと、「煮込み田楽」に女房言葉である「お」をつけたものが「煮込みおでん」、つまり「おでん」の語源とされているからだ。

関東で生まれた煮込み田楽は関西には「関東煮(だき)」として広まり、上品でまろやかな味わいに変化すると、再度関東に逆輸入された。だからいまの「おでん」はやさしい味わいになっているが、関西の「関東煮(だき)」は関東に逆輸入されたあとも変化をつづけ、いまではより上品な味わいになっているらしい。

なお、「おでん」は関東大震災以後に広まったといわれている。関東大震災が1923年、そろそろ「おでん」も百周年だろうか。「おでん」は「おでん屋」にかぎらずスーパーやコンビニエンスストアでも買えるようになった。


【おでん(上五)】
おでん屋の酒のよしあし言ひたもな 山口誓子 
おでんやに借を残して世を去りし 中谷楓子
おでん屋に同じ淋しさおなじ唄 岡本眸
おでん煮えさまざまの顔通りけり 波多野爽波
おでん食ふ今渡り来し湖を背に 古谷実喜夫
おでん酒貧乏ゆすりやめ給へ 倉橋羊村
おでん屋の小さくなつて仕込みをり 中西亮太
おでん揺れるエレベーターに入るとき 今泉礼奈

【おでん(中七)】
戸の隙におでんの湯気の曲がり消え 高浜虚子
何人にならうとおでん煮てをけば 田畑美穂女
眼鏡玉くもるとおでん旨くなる 谷村悦子
仲直りしたくておでん温める 瀬戸優理子
たましひの寄り来ておでん屋が灯る 北大路翼
コンビニのおでんが好きで星きれい 神野紗希
後輩の女おでんに泣きじゃくる 加藤又三郎

【おでん(下五)】
飲めるだけのめたるころのおでんかな 久保田万太郎
河馬の背のごときは何ぞおでん酒 上田五千石
大根細く侘しきことやおでん鍋 中江百合
看板の裏がならべるおでん食ふ 福日立杭
どこまでが本当の話おでん煮る 佐々木輝美

【その他】
がんもどき、あなた、だいこん、たまご、ぼく 滝浪貴史


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