煌々と渇き渚・渚をずりゆく艾 赤尾兜子【季語=艾(春)】


煌々と渇き渚・渚をずりゆく艾

赤尾兜子
(『虚像』昭和40年)

「・(なかぐろ)」が好きである。つける必要のないところにも、つけたくなる。

「モロボシ・ダン」のような人名につくものから「デス・ゲーム」のように2語を組み合わせた単語につくものまでさまざまであるが、特に好きなのは「ダンス・ダンス・ダンスール」のように、同じ単語の繰り返しにつくタイプのなかぐろである。

俳句でも常々使いたいと思っており,昔〈電波塔・風車・イヴ・サンローラン〉という句を作ったことがある。多分なかぐろが好きで作ったわけではないはずだが、神野紗希の作にも〈指・睫毛・吐息・耳朶・ラ・フランス〉がある。

煌々と渇き渚・渚をずりゆく艾
赤尾兜子
(『虚像』昭和40年)

掲句には僕の一番好きな「繰り返しタイプ」のなかぐろが使われている。最後の艾(もぐさ)とはヨモギの葉から作られる綿状の物質で、火をつけて灸として使うのだという。

渇きと渚という一見矛盾する表現ののち、なかぐろと繰り返しによって不自然に引き延ばされた精神世界の渚。艾の熱が、無限にも思える匍匐の行程から自分を正気へと引き戻す。

掲句のように成功している用例は稀である。僕としても引き続きなかぐろの可能性を探っていきたいところであるが、そのためには良質ななかぐろにたくさん触れる必要があるのは言うまでもない。

ということで。よいなかぐろを見つけたら、僕に教えてください。審査の上、グッド・ナカグロ賞として生・ビールを一杯贈呈いたします。

細村星一郎


【執筆者プロフィール】
細村星一郎(ほそむら・せいいちろう)
2000年生。第16回鬼貫青春俳句大賞。Webサイト「巨大」管理人。


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