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古池やにとんだ蛙で蜘蛛るTELかな 加藤郁乎


古池やにとんだ蛙で蜘蛛るTELかな

加藤郁乎
『牧歌メロン』昭和45年

にわかには信じ難いことだが、昨日からいわゆる「10連休」に突入した。前職で2連休すらままならなかった自分にはまだ理解が追いつかないが、始まったものは仕方がないのでとりあえず酒を飲んだ。

飲みながらふと、「ちょっと最近、真面目すぎるんじゃないか」と考えた。仕事でもそれ以外でも、全体的にやや緊張してしまっているのではないか、と。

古池やにとんだ蛙で蜘蛛るTELかな
加藤郁乎
(『牧歌メロン』昭和45年)

加藤郁乎は高柳重信の『俳句評論』で頭角を現した鬼才である。有名句としては〈天文や大食(タージ)の天の鷹を馴らし〉〈昼顔の見えるひるすぎぽるとがる〉あたりだろうか。

初期の郁乎には〈サイダーをサイダー瓶に入れ難し〉〈冬の波冬の波止場に来て返す〉といった、トートロジーを思わせるレトリックを用いた句が多く見られた。相当に濃いメンバーの『俳句評論』の中にあっても際立つ個性はこの頃から健在ではあったが、その句は句集『球體感覺』『えくとぷらすま』を経てみるみる異形と化していった。

第三句集『牧歌メロン』に所収の掲句は無論〈古池や蛙飛びこむ水の音〉を踏まえているが、どうだろう。基本的に意味がわからないし、蜘蛛を勝手に動詞化しているし、「かな」も唐突すぎる。簡単に言えば、めちゃくちゃふざけているのである。

『牧歌メロン』には他にも〈おいらんたるごたくさにひょぐるすっぽん〉〈冥途いん長火鉢のそれ者でギリシャる〉といった句が収録されているが、おしなべてふざけている。ふざけているが、実際に読んでみるとこちらまで楽しくなってしょうがないのもまた事実である。

人は異彩・奇才に対して、しばしば「その人なりの苦労がある」とか「こういう人ほど真面目にやっている」といった評価をする。実際そういう側面はあるが、郁乎に関しては「本当にただふざけているだけ」だと感じるし、そう読むべきであるとも思う。こちらも、誠心誠意ふざけた気持ちで読むのが一番楽しいはずだ。

思えばこの連載も、ちょっとおふざけが足りない気がする。新生活・新連載といった気負いの中で、それっぽい感じの文章を書かなければとナーバスになっていたことは否めない。改革が必要である。

まずは、一人称を「うなぎ」にしようと思う。次回からは一句鑑賞なんかやめにして、一人ツイスターゲームの動画をアップしよう。ページ内にECを開設して、夏祭りの射的場にある真っ青に日焼けしたエアガンの箱だけを専門に扱う店にするのもいいかもしれない。どんどん楽しく嬉しくなってきたし、うなぎはトランポリンに行ってきます。さようなら!

細村星一郎


【執筆者プロフィール】
細村星一郎(ほそむら・せいいちろう)
2000年生。第16回鬼貫青春俳句大賞。Webサイト「巨大」管理人。


【細村星一郎のバックナンバー】
>>〔3〕銀座明るし針の踵で歩かねば 八木三日女
>>〔2〕象の足しづかに上る重たさよ 島津亮
>>〔1〕三角形の 黒の物体オブジェの 裏側の雨 富沢赤黄男


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