【夏の季語】紫陽花/四葩 七変化

【解説】梅雨の時期の植物といえば、まずこれ。俳句では、四枚の萼の中心に細かい粒のような花をつけるので「四葩」ともいわれますし、色がしだいに変化するので「七変化」とも呼ばれます。歴史的かなづかいだと、「あぢさゐ」となりますね。

紫陽花には「本アジサイ」と「額アジサイ」の二種類があります。おそらく、たんに「紫陽花」といったときには、「本アジサイ」のことをイメージすることが多いと思います。萼の部分(あれは花のように見えるけれど、本当は花ではないのです)が鞠のようにまるまるとしたやつですね。

一方で、「額紫陽花」(これも夏の季語)は、小さい花が集まった「花序」のまわりを、装飾花が絵画の「額」(がく)のように囲っているので、こんなふうに言われています。どちらが古いのかというと、こちらの「額紫陽花」のほうが原種で、日本が原産地であるといわれています。

アジサイは、ヨーロッパでも見ることができますが、中国を経て、日本から渡ったのですね。そして、イギリスなどで東洋の花として人気から品種改良が進んで、現在西洋アジサイとして人気の高い「ハイドランジア」が、大正時代になると日本に「逆輸入」されることになりました。

『万葉集』にはアジサイの歌が2首収められています。こんな歌。

言問はぬ木すらあぢさゐ諸弟(もろと)らが練りのむらとにあざむかれけり 大伴家持

あぢさゐの八重咲くごとく弥(や)つ代にをいませ我が背子見つつ偲はむ 橘諸兄

家持の歌は、色が変わるアジサイの花を「心変わり」になぞらえていて、諸兄の歌では、おめでたい植物として讃えられています。とはいえ、それほどメジャーな花であったわけではなく、江戸時代には「ユウレイバナ」と呼ばれて厭われていました。17世紀を生きた松尾芭蕉は、紫陽花をどんなふうに詠み止めていたでしょうか。

紫陽花や藪を小庭の別座鋪
紫陽花や帷子時の薄淺黄

「別座鋪」は、最後の西上の旅を前にして、子珊の別座敷のこと。この句は、そこで開かれた送別歌仙のときの発句です。「帷子時」とは、「麻のひとえものを着る時節」のこと。「端午の節供から八月末まで」のことで、要は暑い頃合いに、涼しげな色をしていると当時のファッションを織り交ぜて詠んだもの。しかし、そう多くはありませんね。

日本で紫陽花の人気が高まったのは、戦後に北鎌倉の「明月院」の庭に植えられたのが始まりともいわれています。仏様ともゆかりのある「甘茶」と少し似ているということもあってか、寺などでは縁起を担いで植えられるようになりまして、いつしかお寺には紫陽花、というイメージができあがったのでしょう。

紫陽花の色の変化は、アントシアニンという色素が含まれていることに由来するもの。これに補助色素という物質やアルミニウムが関わって赤や青の発色をするのだそうです。アルカリ性土壌では赤っぽく咲き、酸性の土壌では土の中のアルミニュウムが吸収されるために青紫色になります。

そういえばむかし、『人形草子あやつり左近』というミステリー漫画が、少年ジャンプで連載されていて、死体を埋めたことによりPH値が変わって、そこだけ花の色が変わってしまった――ことがポイントとなって、事件を解決するというお話がありました。

【関連季語】梅雨、額の花、蝸牛など。

【紫陽花】
あぢさいや神の灯深き竹の奥 正岡子規
思ひ出して又紫陽花の染めかふる 正岡子規 
けふや切らんあすや紫陽花何の色 正岡子規
たれすぎて紫陽花泥によこれけり 正岡子規
紫陽花に秋冷いたる信濃かな 杉田久女
仔猫来て瑠璃紫陽花を仰ぎをり 水原秋櫻子
傲慢の花紫陽花の紅毬は 山口誓子
八つ橋があり紫陽花の園生にも 山口誓子
凝視され紫陽花凝としてゐたり 山口誓子
紫陽花や大きな夢はばらばらに 加藤楸邨
あぢさゐに一閃の雨つきさゝる 川口重美
あぢさゐやきのふの手紙やや古ぶ  橋本多佳子
あぢさゐが藍となりゆく夜来る如   橋本多佳子
赤門は古し紫陽花も古き藍  山口青邨
紫陽花の夜にうずくまる善意の妻 金子兜太
水鏡してあぢさゐのけふの色 上田五千石
あぢさゐの藍をつくして了りけり 安住敦
他人のような妻と街角のあじさい色 橋閒石
紫陽花の絶頂は青つくしけり  平井照敏
紫陽花となるまでのただ無色かな 平井照敏
紫陽花の真夜の変化はわれ知らず 鈴木真砂女
いくらでも水気ほしげに紫陽花は 細見綾子
又たれか鐘撞いてゐる山紫陽花 飯島晴子
夭折の紫陽花真上から掴み 飯島晴子
紫陽花や海のむかふは海の国 今井杏太郎
札所には札所の色の濃紫陽花 後藤比奈夫
紫陽花やいつもここらで息きれる  池田澄子
淡紅き紫陽花の陰で鬼を視る 仁平勝
紫陽花の変幻不在少年期 仁平勝
紫陽花や二階の低き美人局  仁平勝
あぢさゐに夜空すみずみまで夜空 成田清子
あぢさゐに触れて鋏のくもりけり  高田正子
紫陽花や一つ光りて赤き星  岸本尚毅
月明に紫陽花折れてぶら下がる 岸本尚毅
あぢさゐの声か梁塵秘抄とは 髙山れおな
鎌倉は紫陽花を剪りはじめけり 望月周
あじさいが郵便局を開きけり 小野裕三
あぢさゐのほとんど白となり海よ 宮本佳世乃
こゑ新しくあぢさゐに閉ざさるる 宮本佳世乃
まだ小さき紫陽花の毬ノクターン 神野紗希
紫陽花に住み貧乏を知らざりき 野口る理
あぢさゐはすべて残像ではないか 山口優夢
紫陽花や笑つてほしいから笑ふ 江渡華子
てざわりがあじさいをばらばらに知る 福田若之

【四葩】
鍛冶の火を浴びて四葩の静かかな 富安風生
四葩切るをとこの手許大胆に 三橋鷹女

【七変化】
吾が庭の紫陽花同時に七変化 山口誓子

【その他】
紫陽花に八月の山たかからず 飯田蛇笏
紫陽花に八月の山高からず 飯田蛇笏

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