夏の季語

【夏の季語】花火

【夏の季語=晩夏(7月)】花火

伝統的な立場をとれば花火は初秋の季語となる。というのも、花火はもともと盆前の行事だったためだ。たとえば両国の隅田川花火大会は江戸中期に「川開き」の行事としてはじまった。「川開き」は、いまでは納涼を祝い水難防止を祈願する夏の行事とされているが、当時は盆前の禊といった意味合いがあったらしい。盆は秋だから秋の季語というわけだ。

花火船遊人去つて秋の水 召波

一方で火薬技術が進歩し花火の娯楽性が高まると、花火は夏にも打ち上げられるようになる。こうして花火の納涼のイメージが付着し、段々と夏の季語になっていったようだ。

「手花火」と区別して打ち揚げるものを「揚花火」というが、単に「花火」といっても揚花火を指す。手花火には「仕掛花火」「線香花火」「ねずみ花火」などがあり、揚花火は「遠花火」「大花火」などといわれる。

花火は明るく楽しげなもの、というだけではない。花火が揚がるまでの期待、空に開いたときの輝き、そして闇夜に消える哀感、花火にはこれらのイメージが同居している。この哀感に秋らしさを感じることもできるだろう。たとえば「大花火」では明るさが、「線香花火」では暗さや哀感が強調されやすい。句がどのイメージを引き出そうとしているかに注目したい。


【花火(上五)】
遠花火音して何もなかりけり 河東碧梧桐
大花火重なり開く明るさよ 高野素十
花火上るはじめの音は静かなり 星野立子
花火見て一時間後に眠り落つ 山口誓子
花火こぼれて卒塔婆林立するくらがり 林田紀音夫
花火果て銀河に戻る隅田川 角川春樹
花火より火の棘降りてくる他国 対馬康子
大花火蘇りては果てにけり 照井翠
鼠花火くらがりの子の笑ひかな 原田種芧
手花火のぽとんと日本最南端 須山つとむ
手花火を左に移しさしまねく 成瀬正俊
揚花火明日に明日ある如く 阪西敦子

【花火(中七)】
木の末に遠くの花火開きけり 正岡子規
庭石に線香花火のよべの屑 高野素十
ねむりても旅の花火の胸にひらく 大野林火
夕焼けの海花火師と少し話す 加藤瑠璃子
火のやうな月の出花火打ち終る 石橋秀野
ばくだんもはなびもつくるにんげんは 前田霧人
殺伐なねずみ花火のような国 野坂紅羽
飯蛸に昼の花火がぽんぽんと 大野朱香 
それぞれに花火を待つてゐる呼吸 村越敦

【花火(下五)】
暗く暑く大群衆と花火待つ 西東三鬼
石段にとはにしやがみて花火せよ 渡辺白泉
あらぬ方に両国を見し花火かな 星野麦人
ピザの生地寝かせています遠花火 山田まさ子
別のこと考へてゐる遠花火 黛まどか
大空に自由謳歌す大花火 浅井聖子
黒繻子にジャズのきこゆる花火かな 小津夜景
国破れて三階で見る大花火 佐藤文香


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