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手花火を左に移しさしまねく 成瀬正俊【季語=花火(夏/秋)】

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手花火を左に移しさしまねく

成瀬正俊(なるせ・まさとしまさとし))

緊急事態宣言も、蔓延防止等重点措置も適応範囲が追加になって、すでに出ていたところでは2週間足らずの延長となった今日。10日でもなく14日でもなく、12日の延長って。なんだか意図も、先も見えない金曜ですよ。

急に冷えた数日が過ぎて、やや残暑らしい気温が戻った今週半ば、そうはいっても一度35度を通った体は、30度を超えたくらいでは、そんなに暑さは感じない。夏休みもまだ続いていることだし、あんまり急に冷えると、体がついてゆかなくて、今朝から胃腸が不調。どうも、夏休み気分を味わいたくて、久々なのにとまらなかったポテチ&ビールがよくなかったようだ。

そんな体調もありまして、食当たりに効くこちらを。

 手花火を左に移しさしまねく

右手にあった火のついた手花火を、左手へ移したのちに、「さしまねく」、手招きをする。招くのは右手なんだろう。自分の動作かもしれないという一方で、火の動きによって見て取れたほかの誰かの動きかも知れない。遠くからも見えるおおらかな動きで、手花火の輪に誘われている。

表情は見えないけれど、誘いたくない人を花火を持ち変えてまで誘うことはないだろう。裏切ることもある表情や声や言葉などよりも、動作は思いのほか率直にものを伝えるのかもしれない。

暗闇と火によって創り出された「見えなさ」だろう。

見えなくていいものは見えなくていいのだけれど、その分、他のことはもう少しよく見える週末になりますように。

『院殿』(1995年)

阪西敦子


【阪西敦子のバックナンバー】
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>>〔45〕金魚すくふ腕にゆらめく水明り    千原草之
>>〔44〕愉快な彼巡査となつて帰省せり    千原草之
>>〔43〕炎天を山梨にいま来てをりて     千原草之
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>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月      松藤夏山


【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。



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