夏蝶の口くくくくと蜜に震ふ堀本裕樹【季語＝夏蝶（夏）】

ハイクノミカタ

夏蝶の口くくくくと蜜に震ふ　堀本裕樹【季語＝夏蝶（夏）】

2023/5/30
ハイクノミカタ, マンスリーゲスト
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夏蝶の口くくくくと蜜に震ふ)

堀本裕樹

夏の蝶が花の蜜を吸っている。その蝶の長い口がくくくくと震えているという句。蝶の口は口吻（こうふん）と呼ばれ、普段は小さくぐるぐる巻きになっているが、蜜を吸うときは伸びて「く」の字の形になる。そのくの字になった口が震えているのである。一句をぱっと文字で見たときに、「くくくく」が震える蝶の口の残像のようだと感じた。よく漫画のキャラクターなどが「クックック……」と笑うシーンがあったりするが、「くくくく」は聞こえるはずのない夏蝶の不敵な笑い声のようでもある。そして下五「蜜に震ふ」の表現の的確さに膝を打つ。

作者は堀本裕樹。わたしが所属する結社「蒼海」の主宰である。

先日の句会で、堀本先生が掲句の誕生秘話を語っていらっしゃった。先生は吟行先の箱根で揚羽蝶を見て句を作り、その後訪れた岡田美術館で揚羽蝶の絵を見た。その絵を見て、あたらめて揚羽蝶の句を完成させたそうだ。そう言われてみると、掲句はリアリティーと絵画的な誇張との塩梅が絶妙である。

堀本先生は夏の句が得意だとおっしゃっていた。特に虫の句に秀句が多いと思う。

句集『一粟』より。

（千野千佳）

【執筆者プロフィール】
千野千佳（ちの・ちか）
１９８４年新潟県生まれ。２０１６年より作句開始。２０１８年蒼海俳句会に入会。第２回蒼海賞受賞。第１１回星野立子新人賞受賞。薬剤師。
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【千野千佳さんの自選10句★】

風ふいて秋蝶の翅ずれにけり
刈られたるやうにも見ゆる木賊かな
爽やかや赤子と入る試着室
成長とは顔伸びること落花生
浮いてゐるやうに海鼠の置かれあり
電波塔どどんと仕事始かな
まつすぐに蒲団の上を歩いて来
体操にしたがふピアノうららけし
上向いて鶯餅を食べにけり
花筵たたまんと立つ二人かな

2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜＝日下野由季→篠崎央子（2021年7月〜）、火曜＝鈴木牛後、水曜＝月野ぽぽな、木曜＝橋本直、金曜＝阪西敦子、土曜＝太田うさぎ、日曜＝小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓