ハイシノミカタ【#1】「蒼海」(堀本裕樹主宰)


【俳誌ロングインタビュー】
ハイシノミカタ【#1】
「蒼海」(堀本裕樹主宰)


セクト・ポクリットでは、今月から新企画「ハイシノミカタ」をスタートします。さまざまな俳句雑誌(結社誌・同人誌・総合誌)の編集のうらがわについて、がっつり訊いてしまおうというコーナーです。記念すべき【#1】は、堀本裕樹さんが主宰をつとめる「蒼海」。編集長の浅見忠仁さんに、じっくりとお話をうかがいました。


未知の航海に乗り出した「蒼海」

――浅見編集長から見て、堀本主宰はどんな方ですか?

浅見 そうですね、羅針盤のような存在でしょうか。または大きな海のような。方向性を示しつつ、それぞれの俳句観を尊重してくれているので、信頼して目指す方向に進むことができます。

――結社設立の経緯、現在の規模などを教えてください。

浅見 2018年9月に創刊号を発行しました。現在の会員は250名ほどです。主宰が以前から行っていた「いるか句会」「たんぽぽ句会」といった句会のメンバーが多く参加してくださり、最初から200人規模で発足できました。

――最初から200人規模というのは、すごいですね。参加されている皆さんに特徴はあるのでしょうか?

浅見 初心者が多いことと10代から80代まで幅広い年代の方が会員となっていることが特徴でしょうか。堀本主宰は文語、旧仮名遣いで俳句を詠んでいますが、会員は文語と口語、旧仮名と新仮名をそれぞれ選ぶことができます。会員それぞれの志向を尊重するところも大きな特徴だと思います。

――編集長ご自身は、どのようにして俳句に出会われたのでしょう?

浅見 2012年の秋頃、書店で見かけた主宰の『十七音の海』(カンゼン、現在は『俳句の図書館』(角川文庫))を手に取り、なんだか俳句っておもしろそうだぞと思い、どうやら角川庭園・杉並詩歌館で句会というものをやっているらしい、調べたら自宅から徒歩10分ぐらいで、これは一度行ってみようと思って参加したのがきっかけです。一度参加したら、堀本主宰の人柄や参加者の雰囲気もよく、すっかりはまってしまいました。

――それまで俳句などの文芸に親しまれた経験はあったんですか?

浅見 そういえば中学2年生のころ、担任の先生に毎日提出する連絡帳のようなものに575のなにかを書いてましたね。たぶん国語の教科書に載っていた俳句に触発されて、もちろん季語なんてわかってなかったので、とりあえず575になっていればいいやという感じで書いていたんだと思います。作ったものはなにも覚えてませんが(笑)

浅見編集長、最新号とともに(©️蒼海俳句会)

「マス」のメディアと結社誌のあいだ

――堀本主宰は、ピース又吉さん、小林聡美さん、町田康さんなど、実に幅広い交流をされていますよね。主宰個人の華やかな活動は、「蒼海」にも生かされているのでしょうか?

浅見 『蒼海』の創刊号では、又吉さんはじめ多くのかたにご寄稿いただきました。ふだんの「蒼海」の活動ではそこまで意識することはありませんが、俳句が様々な世界とつながっていることを実感させてくれます。

――又吉さんと堀本さんの『芸人と俳人』(2015年)は、なかなか画期的な本でした。もともと、せきしろさんと又吉さんの『カキフライが無いなら来なかった』(2009年)『まさかジープで来るとは』(2010年)という自由律俳句のシリーズがあったわけですが、タイミング的に又吉さんが『火花』で芥川賞を受賞するのとも重なって…

浅見 そういうタイミングの良さが節目節目であるように思いますね。あの本をきっかけに俳句を始めたという入会者も多いです。その他、主宰の『桜木杏、俳句はじめてみました』(幻冬舎文庫)が、今度広瀬すずさん主演でWOWOWでドラマ化されることになりました。「あんのリリック-桜木杏、俳句はじめてみました」というタイトルで原作とは大幅に違う内容になるようですが、原作にはないラップとの組み合わせでいったいどんなドラマになるんでしょう(笑)。

――広瀬すずさんと俳句がつながるとは、これまた華がありますね。原作は、母親に連れられて初めて句会に参加した大学生の物語のようですが、展開が気になります。ますます「蒼海」の入会者が増えるのではないかと…

浅見 前編が2月27日、後編が3月6日の放送予定ですが、会員の俳句もドラマ内で使われるということなので、とても楽しみです。主宰の活動から俳句や日常生活では得られない世界を知ることができることは「蒼海」ならではかもしれません。ちなみに、『桜木杏、俳句はじめてみました』の単行本を私が編集したこともあり、とても感慨深いです。

――単行本版は、浅見さんがふだんお勤めの駿河台出版社から『いるか句会へようこそ! 恋の句を捧げる杏の物語』(2014年)として刊行されています。浅見さんの俳句入門も、本のアイデアに生かされているんでしょうね。

浅見 そうですね、まさに主人公と同じように俳句を学んでいた時期でしたので、仕事とはいえ、とても楽しい時間でした。あの本のおかげで俳句の世界がより身近になりましたが、まさか「蒼海」へと繋がっていくとは思いませんでした。そういう意味でもこれからも大切にしていきたい本です。

シンプルな装丁/斬新な企画

――堀本主宰は、1974年生まれですよね。会員の平均年齢もやはり「若め」なのでしょうか?

浅見 おそらく50代なかばぐらいでしょうか。「若い」というイメージがあるかもしれませんが、幅広い年齢のメンバーがアクティブに活動しています。事務局や編集部のスタッフは20代~50代が多いですね。みなさん仕事や子育てで忙しく大変ですが、そのなかでも時間を割いて協力してくれています。

堀本主宰(©️蒼海俳句会)

――「蒼海」会員に、地域的な偏りはありますか?

浅見 やはり東京・首都圏が中心ですが、関西もだんだん盛り上がってきました。地方の会員がまだ少ないので、今後増やしていけたらと思っています。海外からはドイツとアメリカ在住の会員からの投句があります。

――「蒼海」誌は、シンプルでおしゃれなデザインが目をひきます。表紙はもちろん、紙質やレイアウト、字体なども。ひとことでいうと「かわいい」感じ(笑) これはどなたのデザインなのでしょうか?

浅見 堀本主宰の昔の同僚でデザイナーの仁木順平さんにお願いしています。新しい結社というイメージをデザイン面でも表現したかったので、評価していただけて嬉しいです。

2020年12月までに季刊で10冊を数えた蒼海誌(©️蒼海俳句会)

――浅見編集長の「蒼海」編集長としてのお仕事を教えてください。

浅見 進行のスケジュール管理がメインです。その他私が勤めている会社が投句の受付先なので届いた投句の整理、編集部員への作業の割り振り、原稿の整理や校正のとりまとめ、最終的なチェックなどをしています。

――編集の体制や特徴を教えてください。主宰は、どのように編集にかかわられていますか? 

浅見 現在私も含め8人体制です。私以外に現役の編集者が2人いるのが心強いです。運営もそうですが、編集部も20代から40代が中心の若い体制です。その分、主宰には校正も手伝ってもらってますし、企画などの相談に乗ってもらっています。

――現役のプロの編集者がいるのは主宰としても心強いでしょうね。「蒼海」ならではのオリジナルな企画があれば、教えていただけますか?

浅見 外部からの作品評を創刊号から2年間歌人の山田航さんに担当していただきました。10号より歌人の東直子さんに交代しました。歌人ならではの視点がとても勉強になります。

――歌人の方に句評を依頼するのは、とても斬新ですね。やはり俳句の鑑賞って「型」のようなものがあって、どうしても似てきてしまいますから、読み方の面でも書き方の面でも刺激があります。

浅見 そのほか、招待作品として毎号10句ご寄稿いただいています。これまで、岸本尚毅さん、生駒大祐さん、大木あまりさん、津川絵理子さんにご寄稿いただきました。また、万葉集の研究家の月岡道晴さんによる連載「アナタの知らない万葉歌の世界」も好評です。万葉の時代から変わらぬ人の思いをすくいあげ、読み物としてもとてもおもしろいです。

――月岡道晴さんは、ご自身が歌人でもいらっしゃるのですよね。堀本主宰の所属されていた「河」を創刊された角川源義さんは、折口信夫(釈迢空)のもとで短歌を学んだりもしていました。出身大学の國學院というつながりも当然ありますね。〈俳〉と〈うた〉をつなぐ回路が、通低しているのは特徴のひとつなのかしらとも思います。

浅見 あとは、オリジナルと言えるかはわかりませんが、会員が自由に一句単位で会員の句を評する「青波光波」というコーナーや、会員による書評や映画紹介も連載しています。連載はすべて最後を俳句で締めるというルールがオリジナルといえるでしょうか。編集部だけでなく、会員全体で誌面を作っていけるようにしたいと思っています。

――あたらしく俳誌をつくるうえで、なにか参考にしたことはありますか? 

浅見 最初は他の結社誌をいろいろと参考にしました。外部の執筆者にも原稿を依頼したいと思ってましたので、『鷹』や『澤』はとても参考にさせていただきました。まだまだ至らない点が多いですが、少しずつ誌面を充実させていきたいです。

――そういわれてみれば、表紙に余白の多い感じは「澤」(主宰=小澤實)を少し思わせるところがあるかもしれません。いざ俳誌をスタートさせてから、編集サイドで気をつけていることはありますか?

浅見 いまはとにかく誤植などのミスをなくすことですね。まだ慣れないうちは大きなミスも出してしまい、迷惑をかけてしまいましたので、できるだけミスをなくすよう気をつけています。

オンラインの利点/アナログの利点

――現在、結社の句会の数はどのくらいありますか? 句会運営上での工夫などがあれば、それも教えてください。

浅見 コロナ禍以前は月1回の定例句会が指導句会の中心で、毎回60~80人ほどの参加人数でした。現在定例句会は休止中ですが、2020年6月から、他の結社に先駆けてZoomを使ったウェブ会議形式でのオンライン句会をはじめました。月2回、合計60~70人が参加しています。その他、関西の有志が開催している「ひぐらし句会」が10数人でやっています。

(©️蒼海俳句会)

――オンラインだからこそ、新しい句会をつくりやすいというのもありますね。会場を探したり、移動したりする手間が省けますから。これは仕事や子育てに忙しい若い方にはメリットの多い形態のようにも思えます。

浅見 2021年1月より若手有志が若手句会「蒼耳句会」を立ち上がるので盛り上がりが楽しみです。結社公認でない句会ですが、会員がそれぞれ独自にやっている句会がネット句会含めいくつかあります。また、蒼海の活動とは別に、「いるか句会」などの以前から主宰が行っている句会があります。まずはそこに参加して、「蒼海」に入会する流れもあります。

――意欲的な若い作家も多いようですね。昨年の俳句四季新人賞最終候補には、「蒼海」所属の方のお名前がいくつもありました。現在は、コロナ禍で対面での句会も行いにくくなっていると思いますが、どのように対処されていますか? 工夫されていることなどあれば、教えてください。

浅見 皆で集まって句会をできないのは残念ですが、オンライン句会をはじめてみると、オンラインならではのメリットも見えてきました。地方や海外からも参加できますし、子育ての合間に自宅から参加できるのも好評です。教室形式のレイアウトの指導句会と違い、画面上で参加者の表情が見えるのもいいですね。今後は、オンライン句会に抵抗感のある方もいるので、そういった方たちのための企画も考えています。

――そういえば堀本主宰、昨年末にお子さんがお生まれになったそうですね。結社として、子育て世代のフォローなど、実践していることはありますか?

浅見 自宅で参加できるオンライン句会がひとつのフォローになっているかもしれません。子育て世代からの新しいアイデアがあれば、前向きに考えたいと思っています。

(©️蒼海俳句会)

――年間を通じて、イベントはどのくらいあるのでしょうか? 現在は、コロナ禍で中止にせざるをえない状況がつづいていますが…

浅見 2018年11月に池田澄子さん、小澤實さん、岸本葉子さんをゲスト選者にお招きして盛大に創刊記念句会、パーティーをしました。宿泊付きの吟行などの企画もあったのですが、コロナ禍でしばらく難しいのが残念です。コロナ禍が終息すれば、一年に一回は何かしらイベントをしていきたいと思っています。

まだ創刊して2年ほどなので、少しずつ活動の幅を広げていきたいと思っています。先日、オンラインで第一回蒼海賞の表彰式や忘年会を行いましたが、コロナ禍のなか、オンラインでもできることはまだまだあると思いました。

――表彰式までオンラインで開催したというのは、めずらしいケースだと思います。

浅見 嘆いていてもはじまらないので、できることをみんなで協力しあって進めていければと思います。

――結社誌への投句は、ハガキでしょうか。どうしても打ち込みの作業が発生すると思いますが、メール投句なども検討されたりしたりしますか?

浅見 蒼海は「若い」というイメージかもしれませんが、メールを使わないご高齢の方などにも参加していただきたいので投句は葉書にしています。会員が増え、投句人数がいまの倍ぐらいになれば、メールでの受付も検討しなければいけないと思っています。

編集部もみな働き盛りで作業を分担する必要がありますので、アナログのほうが作業を分担しやすい面もあります。専任で編集をできる方がいればいいのですが、なかなかそうもいかないのでいまのところは入力作業が発生しても封書で投句用紙を受け取るほうがやりやすいと思っています。私も本業が忙しい年代なので、悩ましいところです。

「蒼海」は勢いのある結社のひとつ

――差し支えなければ、現在の発行部数を教えてください。創刊号から着実に増えている感じでしょうか? 書店での販売も行っていますか?

創刊号のみ1000部発行し、いくつかの書店で販売もいたしました。2号からは500部発行しています。

――会員のみなさんに勧めている本などがあれば、教えていただけますか?

浅見 主宰の本のなかでは、ピース又吉さんが主宰に弟子入りし、俳句のおもしろさに目覚めていく『芸人と俳人』(集英社文庫)、俳句鑑賞の入門として、名句、季語、表現技法、暗唱と章立てし、はじめて触れる人に向け、俳句をやさしく読み解いている『俳句の図書室』(角川文庫)、ひぐらし先生と弟子のもずく君の問答による物語仕立ての俳句入門書『NHK俳句 ひぐらし先生、俳句おしえてください』(NHK出版)を読んでほしいですね。

――現在の俳句界では、最も多くの入門書を書かれている方のおひとりが、堀本主宰ですよね。芸能人とのコラボレーションなどは、かつての小林恭二さんの本を思わせるようなところもあります。

浅見 その他、山本健吉『定本 現代俳句』(角川選書)や、藤田湘子『20週俳句入門』(角川学芸ブックス)は定番としておすすめしています。

――セクト・ポクリットの読者のみなさんのために、現在の「蒼海」を代表する作家を何名か、作品とともにご紹介いただけますか? 

浅見 有望な方はたくさんいらっしゃいますが、そのなかから、第1回蒼海賞受賞者の曲風彦、第9回北斗賞準賞の小谷由果、第4回円錐新鋭作品賞白桃賞受賞の千野千佳、全国俳誌協会第3回新人賞特別賞受賞の本野櫻魚の4名を挙げたいと思います。

  遮光器土偶構へ低しよ冷ややかに  曲風彦
  セーターの毛玉に恋の擦れ残る  小谷由果
  春風や動物園をあるく犬  千野千佳
  アネモネの枯れて座礁の人魚めく 本野櫻魚

――最後の質問です。「蒼海」に入会するには、どうしたらいいですか?

浅見 ホームページに入会申込のフォームがありますので、そこから申し込みできます。会員も順調に増えていますし、それぞれの会員がとても楽しんで俳句活動をしているので、ぜひご入会を検討してみてください!

――2021年、さらに「航路」を広げていってください。本日はありがとうございました。

【次回は「奎」、2月1日ごろ配信予定です】


【「蒼海俳句会」について】
俳人の堀本裕樹が主宰する俳句結社。2018年創立、同年9月に同名の季刊誌「蒼海」を創刊。編集長は浅見忠仁。年会費は一般12,000円、学生(高校生・専門学校生・大学生・大学院生、29歳以下)6,000円。随時会員募集中。

堀本裕樹(ほりもと・ゆうき)
1974年和歌山県生まれ。「蒼海」主宰。「いるか句会」「たんぽぽ句会」も指導を行う。國學院大学卒。第2回北斗賞、第36回俳人協会新人賞、第11回日本詩歌句随筆評論大賞受賞。東京経済大学、二松學舍大学非常勤講師。2016年度、2019年度「NHK俳句」選者。公式ウェブサイト「堀本裕樹オフィシャルサイト」。

浅見忠仁(あさみ・ただひと)
群馬県高崎市出身。2012年より俳句を始める。中国語や韓国語を主に担当する語学書系編集者。新大久保界隈で、韓国料理、中国料理、ネパール料理などの食べ歩きが趣味。勤務先HP https://www.e-surugadai.com/



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