【冬の季語】綿虫

【冬の季語=初冬(11月)】綿虫

「綿虫」はなかなか厄介な季語。

「綿虫」の俗称である「雪虫」と、春に雪面に現れる「雪虫」という、似たようでいてまったく違う2種類の虫がいるため。一句だけ取り出してみるとどちらを詠んだものか迷うものも多く、歳時記の例句でも少なからず混乱していることがある。

冬の季語としての「雪虫=綿虫」は、晩秋から初冬にかけて、空中を青白く光りながら浮遊する。物に当たると付着する。明治以降注目されて、詠まれるようになった。

雪虫が初めて出現してから2週間後に初雪が降るということが、一時まことしやかに語られたが、地域によってまちまちであり、いわば都市伝説のような面もある。

「雪ぼたる」「雪婆」「大綿」「線虫」など、昭和期には副題の幅も広がった。


【綿虫(上五)】
綿虫やむらさき澄める仔牛の眼 水原秋櫻子
綿虫のはたしてあそぶ櫟みち 石川桂郎
綿虫や母あるかぎり死は難し 成田千空
綿虫がとぶ青雲の志 辻田克巳
綿虫や光りつづける死者の爪 宇多喜代子
綿虫と息合ひて世に後れけり 大石悦子
綿虫の穢土も浄土もなくとべる 松本澄江
綿虫の消えてこの世の音ばかり 岩淵喜代子
綿虫や卓袱台捨てて一家去る 守屋明俊
綿虫や遠弟子として生きて来し 野中亮介
綿虫のあたりきのふのあるごとし 小川軽舟
綿虫のどれにも焦点が合はぬ 林 菊枝
わたむしに重力わたくしに浮力 嵯峨根鈴子
綿虫や親と子としてゐる不思 吉野まつ美
綿虫と契る綿虫黄金郷 小林貴子
綿虫に人の眼の満ちて引く 藤井あかり
綿虫や愛するために名をつけて 神野紗希
綿虫の集まりさうな静電気 西川火尖

【綿虫(中七)】
いつも来る綿虫のころ深大寺  石田波郷
老人と綿虫のゐる個室かな 柿本多映
誰の手もそれて綿虫まどかなれ 大竹きみ江
見えてくる綿虫じつとしてゐれば 津高里永子
ゆふぞらにまた綿虫を見失ふ  中岡毅雄
陽のままでいる綿虫に出会うまで 月野ぽぽな
翅張つて綿虫のいま飛ぶ構へ 村上鞆彦
祈ることなく綿虫が飛んで来る 加藤綾那

【綿虫(下五)】
その怒りをさめておけと綿虫が  今井豊


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