ハイクノミカタ

去年今年詩累々とありにけり 竹下陶子【季語=去年今年(冬)】


去年今年詩累々とありにけり)

竹下陶子

世の中に才能や技術の高い人は沢山存在する。それは近年はじまったことではないのだが、SNSの普及により明らかになったといえる。もし世の中にSNSが存在しなければ、才能を持ったまま埋もれてしまった人物は少なからずいるからである。SNSで大人気となった「ジャスティン・ビーバー」も存在しなかったかもしれないのだ。

しかし、SNSがこれ程普及した今でも、才能や高い技術力を持っているだけでは有名にはなりにくいだろう。それでは何が必要なのか。必要となってくるのはセルフプロデュース能力ではないだろうか。

セルフプロデュース能力とは、自らの個性や強みを分析した上で戦略的にアピールする力のことである。例えば「明るい人に思われたい」人は「積極的に皆に大きな声で挨拶する」行動を取るということだ。

才能や技術にセルフプロデュース能力が追加されれば、鬼に金棒のように思える。但し、副作用がある。変人に思われる可能性が高くなる、という副作用だ。

例えば「マイケル・ジャクソン」は、「ポップスのキング」とも呼ばれ充分すぎる程有名であろう。

筆者も幼い頃に「マイケル・ジャクソン」の「ムーンウォーカー」という映画のVHSビデオテープを擦り切れる程見ていた。

大人になってもう一度映画を見返してみたのだが、主人公のマイケルが悪者を倒す為にスポーツカーに変身したり巨人になってビームを出したり等、見方によっては滑稽にすら思える内容であった。そういったシーンに「マイケル・ジャクソン」のセルフプロデュース能力の高さを強く感じた。実際に筆者も子どもの頃は純粋に熱狂していたのだから。

しかし一方で、変人扱いされていたことも事実である。

「トム・ウェイツ」の楽曲「オール55」である。

「トム・ウェイツ」はアメリカのミュージシャンで、ジャジーなピアノを弾きながら嗄れた声で酔っ払っているかのように歌い、「酔いどれ詩人」などと呼ばれている。まるで酔っ払ったホームレスのようなパフォーマンスはライブ演奏時のみならず、曲の合間のMCやテレビでのインタビューでも一貫して演じきっている。

「トム・ウェイツ」もまた、セルフプロデュース能力が高いといえる。コアなファンが存在する反面、やや変人扱いされていることも否めない。

  今太陽が昇っていく
  幸運の女神とドライブしているんだ
  高速道路に車とトラック
  そして色褪せていく星々
  俺はまるでこのパレードを先導しているようだ
  もう少しここにいたいけど行かなくちゃ
 

「オール55」の歌詞の和訳の一部である。曲のタイトルは55年式の車に由来しているそうだ。高速道路を運転中の内容だと解釈して良いだろう。

なぜか年越しが近づくとこの曲が頭に流れてくる。歌詞には一切季節について書かれていない。しかしなぜか聴いていると不思議と年末を感じるのだ。歌詞の行間やメロディー等の影響により自然と季節感を感じるのだろうか。勿論、聴く人によって感じ方は様々であろう。

「オール55」について調べてみると、「竹内まりや」がカバーしているそうだ。「竹内まりや」というと「すてきなホリデイ」というクリスマスソングを思い出す。「竹内まりや」の冬を捕らえる心が「オール55」を選んだのだろうか。

2ヶ月間の火曜日を全9回に渡り担当させていただいた。いつもユーモアのある返事で原稿を受け取ってくださる優しい堀切さんのおかげで、なんとか終えることが出来た。また、感想を送ってくださる方や反応をくださる方々に励まされた。何よりも読んでくださった皆様方に、この場をお借りして感謝申し上げたい。これからも読者として「セクト・ポクリット」を楽しみたいと思っている。

新型コロナウイルス感染症の影響により、音楽界は氷の時代を迎えたかのように思えた。しかし、誰しも故郷を想う強い気持ちがあるように、見えない敵との戦いを挑む人々が荒野に種を蒔きはじめた。赤穂浪士のようにジッと耐え、中村仲蔵のように工夫を凝らし、いつの日か芸術を爆発させてくれるであろう。いつか来るその日まで盆栽の成長を見守るようにゆっくりと、子どもと玩具に埋もれて古いVHSのビデオテープでも見ながら年を越すことになりそうである。

赤松佑紀


【執筆者プロフィール】
赤松佑紀(あかまつ・ゆうき)
昭和59年福井県生まれ、広島県在住。音響専門学校在学中にCDデビュー。現在はWEBデザイン会社専務取締役。「香雨」同人。俳人協会会員。
平成25年「狩」入会。平成31年「香雨」入会。令和2年同人。第一回「香雨」評論賞エッセイ部門受賞。令和3年第三回「香雨」新雨賞受賞。令和4年第十回俳句四季新人賞受賞。第三回「香雨」評論賞評論部門受賞。

【自選10句】
鶯餅窓より雨後の日のさして
住みてまだ都と呼ばず花水木
つぎつぎと雲生む山の山ざくら
祈りさながら噴水の高揚り
ペンギンの飛び込むかたち涼新た
実石榴の乳歯のごとき種を吐き
弔問のみな白息を憚らず
白鳥の眠り覚まさぬやうに波
数へ日や小鳥の皿に朝の餌
しあはせは蓄へられず福寿草


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



【2022年11月の火曜日☆赤松佑紀のバックナンバー】

>>〔1〕氷上と氷中同じ木のたましひ 板倉ケンタ
>>〔2〕凍港や旧露の街はありとのみ 山口誓子
>>〔3〕境内のぬかるみ神の発ちしあと 八染藍子
>>〔4〕舌荒れてをり猟銃に油差す 小澤實
>>〔5〕義士の日や途方に暮れて人の中 日原傳
>>〔6〕枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行
>>〔7〕胸の炎のボレロは雪をもて消さむ 文挾夫佐恵
>>〔8〕オルゴールめく牧舎にも聖夜の灯 鷹羽狩行

【2022年11月の水曜日☆近江文代のバックナンバー】

>>〔1〕泣きながら白鳥打てば雪がふる 松下カロ
>>〔2〕牡蠣フライ女の腹にて爆発する 大畑等
>>〔3〕誕生日の切符も自動改札に飲まれる 岡田幸生
>>〔4〕雪が降る千人針をご存じか 堀之内千代
>>〔5〕トローチのすつと消えすつと冬の滝 中嶋憲武
>>〔6〕鱶のあらい皿を洗えば皿は海 谷さやん
>>〔7〕橇にゐる母のざらざらしてきたる 宮本佳世乃

【2022年10月の火曜日☆太田うさぎ(復活!)のバックナンバー】

>>〔92〕老僧の忘れかけたる茸の城 小林衹郊
>>〔93〕輝きてビラ秋空にまだ高し  西澤春雪
>>〔94〕懐石の芋の葉にのり衣被    平林春子
>>〔95〕ひよんの実や昨日と違ふ風を見て   高橋安芸

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔5〕運動会静かな廊下歩きをり  岡田由季
>>〔6〕後の月瑞穂の国の夜なりけり 村上鬼城
>>〔7〕秋冷やチーズに皮膚のやうなもの 小野あらた
>>〔8〕逢えぬなら思いぬ草紅葉にしゃがみ 池田澄子

【2022年9月の火曜日☆岡野泰輔のバックナンバー】

>>〔1〕帰るかな現金を白桃にして    原ゆき
>>〔2〕ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
>>〔3〕サフランもつて迅い太子についてゆく 飯島晴子
>>〔4〕琴墜ちてくる秋天をくらりくらり  金原まさ子

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔1〕九月来る鏡の中の無音の樹   津川絵理子
>>〔2〕雨月なり後部座席に人眠らせ    榮猿丸
>>〔3〕秋思かがやくストローを嚙みながら 小川楓子
>>〔4〕いちじくを食べた子供の匂ひとか  鴇田智哉

【2022年6月の火曜日☆杉原祐之のバックナンバー】

>>〔1〕仔馬にも少し荷を付け時鳥    橋本鶏二
>>〔2〕ほととぎす孝君零君ききたまへ  京極杞陽
>>〔3〕いちまいの水田になりて暮れのこり 長谷川素逝
>>〔4〕雲の峰ぬつと東京駅の上     鈴木花蓑

【2022年6月の水曜日☆松野苑子のバックナンバー】

>>〔1〕でで虫の繰り出す肉に後れをとる 飯島晴子
>>〔2〕襖しめて空蟬を吹きくらすかな  飯島晴子
>>〔3〕螢とび疑ひぶかき親の箸     飯島晴子
>>〔4〕十薬の蕊高くわが荒野なり    飯島晴子
>>〔5〕丹田に力を入れて浮いて来い   飯島晴子

【2022年5月の火曜日☆沼尾將之のバックナンバー】

>>〔1〕田螺容れるほどに洗面器が古りし 加倉井秋を
>>〔2〕桐咲ける景色にいつも沼を感ず  加倉井秋を
>>〔3〕葉桜の夜へ手を出すための窓   加倉井秋を
>>〔4〕新綠を描くみどりをまぜてゐる  加倉井秋を
>>〔5〕美校生として征く額の花咲きぬ  加倉井秋を

【2022年5月の水曜日☆木田智美のバックナンバー】

>>〔1〕きりんの子かゞやく草を喰む五月  杉山久子
>>〔2〕甘き花呑みて緋鯉となりしかな   坊城俊樹
>>〔3〕ジェラートを売る青年の空腹よ   安里琉太
>>〔4〕いちごジャム塗れとおもちゃの剣で脅す 神野紗希

【2022年4月の火曜日☆九堂夜想のバックナンバー】

>>〔1〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔2〕未生以前の石笛までも刎ねる    小野初江
>>〔3〕水鳥の和音に還る手毬唄      吉村毬子
>>〔4〕星老いる日の大蛤を生みぬ     三枝桂子

【2022年4月の水曜日☆大西朋のバックナンバー】

>>〔1〕大利根にほどけそめたる春の雲   安東次男
>>〔2〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔3〕田に人のゐるやすらぎに春の雲  宇佐美魚目
>>〔4〕鶯や米原の町濡れやすく     加藤喜代子

【2022年3月の火曜日☆松尾清隆のバックナンバー】

>>〔1〕死はいやぞ其きさらぎの二日灸   正岡子規
>>〔2〕菜の花やはつとあかるき町はつれ  正岡子規
>>〔3〕春や昔十五万石の城下哉      正岡子規
>>〔4〕蛤の吐いたやうなる港かな     正岡子規
>>〔5〕おとつさんこんなに花がちつてるよ 正岡子規

【2022年3月の水曜日☆藤本智子のバックナンバー】

>>〔1〕蝌蚪乱れ一大交響楽おこる    野見山朱鳥
>>〔2〕廃墟春日首なきイエス胴なき使徒 野見山朱鳥
>>〔3〕春天の塔上翼なき人等      野見山朱鳥
>>〔4〕春星や言葉の棘はぬけがたし   野見山朱鳥
>>〔5〕春愁は人なき都会魚なき海    野見山朱鳥

【2022年2月の火曜日☆永山智郎のバックナンバー】

>>〔1〕年玉受く何も握れぬ手でありしが  髙柳克弘
>>〔2〕復讐の馬乗りの僕嗤っていた    福田若之
>>〔3〕片蔭の死角から攻め落としけり   兒玉鈴音
>>〔4〕おそろしき一直線の彼方かな     畠山弘

【2022年2月の水曜日☆内村恭子のバックナンバー】

>>〔1〕琅玕や一月沼の横たはり      石田波郷
>>〔2〕ミシン台並びやすめり針供養    石田波郷
>>〔3〕ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず  有馬朗人
>>〔4〕仕る手に笛もなし古雛      松本たかし

【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】

>>〔1〕賀の客の若きあぐらはよかりけり 能村登四郎
>>〔2〕血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は   中原道夫
>>〔3〕鉄瓶の音こそ佳けれ雪催      潮田幸司
>>〔4〕嗚呼これは温室独特の匂ひ      田口武

【2022年1月の水曜日☆吉田林檎のバックナンバー】

>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎     神野紗希

【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】

>>〔1〕柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺    正岡子規
>>〔2〕内装がしばらく見えて昼の火事   岡野泰輔
>>〔3〕なだらかな坂数へ日のとある日の 太田うさぎ
>>〔4〕共にゐてさみしき獣初しぐれ   中町とおと

【2021年12月の水曜日☆川原風人のバックナンバー】

>>〔1〕綿入が似合う淋しいけど似合う    大庭紫逢
>>〔2〕枯葉言ふ「最期とは軽いこの音さ」   林翔
>>〔3〕鏡台や猟銃音の湖心より      藺草慶子
>>〔4〕みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何
>>〔5〕ともかくもくはへし煙草懐手    木下夕爾

【2021年11月の火曜日☆望月清彦のバックナンバー】

>>〔1〕海くれて鴨のこゑほのかに白し      芭蕉
>>〔2〕木枯やたけにかくれてしづまりぬ    芭蕉
>>〔3〕葱白く洗ひたてたるさむさ哉      芭蕉
>>〔4〕埋火もきゆやなみだの烹る音      芭蕉
>>〔5-1〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【前編】
>>〔5-2〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【後編】

【2021年11月の水曜日☆町田無鹿のバックナンバー】

>>〔1〕秋灯机の上の幾山河        吉屋信子
>>〔2〕息ながきパイプオルガン底冷えす 津川絵理子
>>〔3〕後輩の女おでんに泣きじゃくる  加藤又三郎
>>〔4〕未婚一生洗ひし足袋の合掌す    寺田京子

【2021年10月の火曜日☆千々和恵美子のバックナンバー】

>>〔1〕橡の実のつぶて颪や豊前坊     杉田久女
>>〔2〕鶴の来るために大空あけて待つ  後藤比奈夫
>>〔3〕どつさりと菊着せられて切腹す   仙田洋子
>>〔4〕藁の栓してみちのくの濁酒     山口青邨

【2021年10月の水曜日☆小田島渚のバックナンバー】

>>〔1〕秋の川真白な石を拾ひけり   夏目漱石
>>〔2〕稻光 碎カレシモノ ヒシメキアイ 富澤赤黄男
>>〔3〕嵐の埠頭蹴る油にもまみれ針なき時計 赤尾兜子
>>〔4〕野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな   永田耕衣


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