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秋の川真白な石を拾ひけり 夏目漱石【季語=秋の川(秋)】


秋の川真白な石を拾ひけり)

夏目漱石


「秋の川で真っ白な石を拾った」というただそれだけのことだが、手中に白い石のひんやりとした硬さがきて、それは何か強靭な想いのかたまりに感じた。

「漱石」という雅号にも石が入っていて、瀬は川をあらわす。もっとも、雅号については、中国の故事に由来する「漱石枕流」から、自身を変わり者と自負していた漱石が自らつけたと言われている。

白い石と言えば、伊勢神宮の式年遷宮の「お白石持行事」が思い浮かぶ。近年では2013年に行われた。宮川より拾い集めた「お白石」を新しい内宮に納める行事で、無形民俗文化財産に指定されている。神宮まで、お白石の入った桶が数個積み上げられた奉曳車や木そりを民衆が大勢で曳いていくが、道をいく陸曳きだけでなく川を曳いていくコースもある。人力で集められかつ運ばれる白い石一つ一つには、奉献する一人一人の想いが宿るように思う。

白い石では、トーマス・トランストロンメルの詩の一節も思い浮かべる。

この色盲の夜に
わたしは 斜面を上に向けて滑走し
白い石たちは その間
月に合図を送っていた。 
   「夜の記憶から」

色を失った闇夜の月に合図を送る白い石たちの懸命さと一途さが印象に深い。詩の終わりには、別の岸にいる〈顔の代りに将来を持つ人びと〉が書かれている。トランストロンメルの詩と漱石の句は何ら関係がないが、将来を持つように石を拾う、と頭のなかでつながった。江戸時代という旧体制と明治という新しい社会の軋轢と葛藤の中で、白刃を自身に突きつけるように悩み抜いた漱石の石を拾う行為とは、風流人の姿ではなく、国と個人の将来をどう持てるのかの思索の姿に思われてくる。そして、漱石没後100年を経た今も、それはいまだ見えざるままである。

小田島渚


【執筆者プロフィール】
小田島渚(おだしま・なぎさ)
銀漢」同人・「小熊座」同人。第44回宮城県俳句賞、第39回兜太現代俳句新人賞。現代俳句協会会員、宮城県俳句協会常任幹事。仙臺俳句会(超結社句会)運営。




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