逢いたいと書いてはならぬ月と書く池田澄子【季語＝月（秋）】

ハイクノミカタ

逢いたいと書いてはならぬ月と書く　池田澄子【季語＝月（秋）】

2023/9/28
ハイクノミカタ, マンスリーゲスト
1936年生まれ, 「オルガン」, 「炎環」, 「豆の木」, ず, たい, て, ては, と, ならぬ, は, 書く, 月, 池田澄子, 秋の季語, 逢う

逢いたいと書いてはならぬ月と書く

池田澄子

先週、合唱の話をしましたが、2020年から2022年の3年間はCOVID 19の蔓延により、市民合唱祭が開催できませんでした。

合唱をすること自体が、数か月できなかった期間もありました。緊急事態宣言のために、公民館を借りることができなかったから。宣言が解除されてやっと声を出せると思っても、ふだん使っている公民館の視聴覚室は手狭なので、体育館を借りてソーシャルディスタンスをとりつつ、ドアを開けてマスクをして合唱を再開しました。

思い出せば、合唱祭の「中止」を決断し周知することも、昨年、コロナ禍での合唱祭を再開した際、全員が帰った後の客席を噴霧器で消毒したことも、私にとっては大きい経験でした。（集まれないという意味では、俳句もそうでした。結社の総会も新年句会も、メール句会に変更していました）

東日本大震災と同様に、COVID 19の蔓延以前と以後では、明らかに生活そのものや生活にある／来てしまう影の濃さやかたち、言ってみれば「私のありよう」が変わったわけです。

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逢いたいと書いてはならぬ月と書く　　池田澄子

池田澄子さんの最新句集『月と書く』（2023年　朔出版）より。なんと第8句集。

前作の『此処』は2020年刊行なので、この最新句集には2020年から2023年初春までの句、あの3年の句が掲載されています。

掲句の「月と書く」は、逢いたい人への思いの表れでしょう。

感染症禍、自由に人と会えなくなった生活そのものとも読むことができるし、「逢いたい」の宛先は彼方にいるひとかもしれない。

何に文字を書いているのかというと、日記や手紙などひじょうにプライベートな世界。自分だけが見ている、空中に書く指文字でも素敵。そしてそれは、「書かれ」なければいけないわけです。思っているときや、口をついて言葉になったときよりも、「書いて、視覚で客観的に認識する」ほうが、さみしいから。

「ふつうに過ごしたい」という思いは、「ふつう」を生きているときは気づかないもの。

でも、どんな時でも、生きもの（たち）は尊厳をもって生きている。淡々と、この世界の中で。

ほかに、好きな句を。（秋中心に）

晩秋と思いぬ不意に逢いたくなる

お久しぶり！と手を握ったわ過去の秋

やっと逢えて近付かないで初時雨

愛し合うとは夕月を嬉しがる

水澄むと書くとワタクシ澄んでしまう

帰ってもひとりだけれど綺麗な月

野を渡りきて秋風とよばれている

さいごに、かっこいい装丁の話。

セミハード装ですって。自分の顔が写りそうなほど、銀色のカバーがしなやかで厚く、かつ強い。うつくしいお着物のよう。

7章の章題は、全て漢字一文字。シンメトリーになっているようにも見える。

句集が背筋を伸ばして歩いているようです。

私もそんなふうに生きていきたいな。

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うちにも、火曜日のほうから、「サライ」が聞こえてきました。

2か月の連載はこれで最後になります。ありがとうございました。

また何かの機会に！　よい週末を。

（宮本佳世乃）

【宮本佳世乃さんの句集『三〇一号室』もぜひ！】

【執筆者プロフィール】
宮本佳世乃（みやもと・かよの）
「炎環」同人、同人誌「オルガン」編集担当、「豆の木」に参加。
合同句集『きざし』（2010、ふらんす堂）、第一句集『鳥飛ぶ仕組み』（2012、現代俳句協会）、第二句集『三〇一号室』（2019、港の人）。
第11回炎環新人賞、第19回炎環賞、第35回現代俳句新人賞。

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