連載・よみもの

【#43】愛媛県歴史文化博物館の歴史展示ゾーン


【連載】
趣味と写真と、ときどき俳句と【#43】

愛媛県歴史文化博物館の歴史展示ゾーン
青木亮人(愛媛大学教授)

愛媛県の卯之町にある歴史文化博物館(通称:歴博)で講演をさせてもらう機会があり、久々に歴博を訪れたことがあった。

歴博は常設展の「歴史展示ゾーン」が充実しており、何度訪れても楽しい博物館である。古代から昭和期までの各時代を体験型展示として展開し、最後は愛媛の民俗行事や祭の様子をまとめたゾーンが広がっており、特に昭和期の生活を復元したコーナーは時を忘れてしまうほどだ。

写真1:「愛媛県の誕生と歩み」の一部

昭和初期の松山の大街道商店街を想定した風景で、菓子店やうどん屋、写真館が軒を連ねている。

このコーナーをさらに進むと、戦後の昭和20~40年代頃の暮らしをしのばせる展示があり、その一角に洋風にしつらえた応接間が再現されている。

写真2:左側に一槽式の電気洗濯機が見える

応接間は和室の畳にカーペットを敷き、テレビやステレオ、ソファ等を置くことでアメリカのホームドラマのように豊かな文化生活をイメージしたものだ。

復元された応接間の横には、駄菓子屋も再現されている。

写真3:駄菓子屋内部

私は昭和49(1974)年生まれだが、子どもの頃に町内にあった駄菓子屋には写真に近い雰囲気でお菓子が並んでいた記憶があり、少し懐かしい気分になる。

写真1のような昭和初期の町並みはさすがに分からないが、親戚や友人が住んでいた家や団地には写真2のような応接間を見かけたり、また町内の駄菓子屋の風情も覚えているため、私が生まれ育った時代にも戦後生活の面影はまだ残っていたように思う。

そのためか、昭和20~40年代の暮らしの風景は、自分が生まれる前の時代であるにもかかわらず、故郷に帰ってきたような不思議な安堵感や郷愁を感じることが多い。

かつて「俳壇」で連載させてもらった「いつでもそこに、俳句があった」(2018~2021)で、戦後生活の諸相とともに無名俳人の句を紹介したエッセイをまとめたことがあった。各回ごとに駄菓子屋や紙芝居、電気洗濯機、電気釜(炊飯器)、団地、野球、百貨店、ミシンやオートバイ等をテーマにしながら無名句を紹介するという連載を続ける中、様々な資料を調べながら原稿を書いていると普段思い出さない幼少期の頃の記憶が甦ることがあり、身の回りに戦後生活の名残があったことを改めて実感したものだ。

歴博の「歴史展示ゾーン」はその時に近い雰囲気が感じられ、訪れるたびに新鮮な発見や驚きがあるのが嬉しい。

こういう風に歴博の「歴史展示ゾーン」はテーマパーク的に楽しいのだが、閑散としていることが多い。静かな環境でゆっくり楽しめるのはありがたいが、大丈夫なのだろうか、と少し不安に感じることがある。個人的には、ディズニーランドのようなテーマパークで夢のひとときを過ごしたい時には歴博に行けばよいのでは、と感じてしまうのだが、世間一般はそうではないようだ。

ところで、「歴史展示ゾーン」を訪れる楽しさの一つに、いつ訪れても変わらない風景が広がっているという点がある。

現実の町並みは数年経つと変容していることが少なくない。以前に訪れた店が閉まっていたり、見慣れた木造家屋や店が新築のマンションや小ぎれいな店舗に変貌することもあれば、最近は昔に訪れた通りの両脇に空き地が増えるようになった。

その点、歴博の「歴史展示ゾーン」はいつも変わらずに建物や風景、モノが保存されており、時間の止まった静けさが瑞々しくたなびいている。

写真4:駄菓子屋の外観


【執筆者プロフィール】
青木亮人(あおき・まこと)
昭和49年、北海道生まれ。近現代俳句研究、愛媛大学教授。著書に『近代俳句の諸相』『さくっと近代俳句入門』『教養としての俳句』など。


【もう読みましたか? 青木亮人さんの『教養としての俳句』】

俳句は、日本のリベラルアーツだ。

日本の伝統文芸として、数百年ものあいだ連綿と受け継がれてきた俳句。その愛好者は1000万人ともいわれている。にもかかわらず、私たちはその知識をどこでも学んでこなかった。そこで本書では、数々の賞を受けてきた気鋭の評論家が、日本人として最低限おさえておきたい俳句のいろはを解説。そもそも俳句ってどうやって生まれたの? 季語ってなぜ必要なの? どうやって俳句の意味を読みとけばいいの? 知識として俳句を知るための超・入門書。


【「趣味と写真と、ときどき俳句と」バックナンバー】
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>>[#2] 猫を撮り始めたことについて
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