神保町に銀漢亭があったころ

神保町に銀漢亭があったころ【第67回】鷲巣正徳

三人の師と銀漢亭の素敵な人々

鷲巣正徳(「街」同人「豆の木」所属)

私の20代、浅間山荘事件がテレビ報道されていた1972年、私は比較外国憲法学の樋口陽一准教授と出会いました。3年間のゼミを通して学問の核心がイデオロギー批判であり、それを支えるものが個人のエートス(ethos)であることを学びました。

30代、美術教室で斎藤國靖先生と出会いました。バルテュス(Balthus)の作品の模写を通して、己の表現技術を己の情熱が超える瞬間の法悦を得ました。

60代、「街」の今井聖主宰と出会いました。<今>を生きる私の生を刻印する俳句をめざすことを学びました。そしてしばらくしたある日、「街」の竹内宗一郎さんに銀漢亭へ連れて行ってもらいました。それからは事あるごとに川越から通い詰めました。

(銀漢亭のカウンターで選句する人たち=写真手前が鷲巣正徳さん、順番に山田真砂年さん、菊田一平さん、杉阪大和さん)

何がそんなに私を惹きつけたのでしょう。

それは、人の魅力ではないかと思います。

店主の伊藤伊那男さんをはじめ、太田うさぎさん近恵さん天野小石さん阪西敦子さん相沢文子さん、堀切克洋さん、西村麒麟さん小野寺清人さん、竹内宗一郎さん等々。俳句を始めたばかりの私にとって、そこは驚異の空間でした。そこに行けば誰かが必ずいましたし、また誰かが必ずやって来ました。

それは変な例えですが、私の学生時代に所属していた楽焼工芸同好会の部室に、ちょっと似ていました。そこでは、四季折々句会があり、たくさんの人達との出会いがありました。句会の後には、恒例の小野寺清人さんの焼きそばや清人さんの郷里気仙沼から直送された牡蠣が出ました。

ある日ふと寄ってみると、最後の湯島句会の打ち上げとのことで、店からはみ出した人々が店の前の道路にたくさん詰めていました。ものすごい光景でした。

また、第一回「雲を呑む会」という一泊吟行で、池田のりをさん、今井麦さん森羽久衣さん小野寺清人さん等と米沢を訪れたことも懐かしく思い出されます。

今私は、文字通り俳句に支えられて生きております。銀漢亭で出会った全ての人達に深く感謝しつつ!

(2013年撮影=右が鷲巣正徳さん、左は金曜スタッフの谷口いづみさん)

【執筆者プロフィール】
鷲巣正徳(わしのす・まさのり)
1952年1月5日、埼玉県に生まれる。「街」同人、「豆の木」所属、俳人協会会員。句集『ダ・ヴィンチの翼』(私家版2019年6月1日)


  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 【特別寄稿】屋根裏バル鱗kokera/中村かりん
  2. 「けふの難読俳句」【第10回】「信天翁」
  3. こんな本が出た【2021年5月刊行分】
  4. 「体育+俳句」【第4回】三島広志+ボクシング
  5. 「けふの難読俳句」【第4回】「毳」
  6. 神保町に銀漢亭があったころ【第25回】山崎祐子
  7. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2023年7月分】
  8. 「パリ子育て俳句さんぽ」【3月26日配信分】

おすすめ記事

  1. 【クラファン目標達成記念!】神保町に銀漢亭があったころリターンズ【18】/我部敬子(「銀漢」同人)
  2. はなびらの垂れて静かや花菖蒲 高浜虚子【季語=花菖蒲(夏)】
  3. 半夏蛸とは化けて出る蛸かとも 後藤比奈夫【季語=半夏(夏)】
  4. 【春の季語】鳥の恋
  5. 【連載】漢字という親を棄てられない私たち/井上泰至【第5回】
  6. 【春の季語】紙風船
  7. 七月へ爪はひづめとして育つ 宮崎大地【季語=七月(夏)】
  8. 銀漢を荒野のごとく見はるかす 堀本裕樹【季語=銀漢(秋)】
  9. をぎはらにあした花咲きみな殺し 塚本邦雄【季語=荻(秋)】
  10. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第19回】平泉と有馬朗人

Pickup記事

  1. 梅雨の日の烈しくさせば罌粟は燃ゆ 篠田悌二郎【季語=梅雨・罌粟(夏)】
  2. 女に捨てられたうす雪の夜の街燈 尾崎放哉【季語=雪(冬)】
  3. 泥棒の恋や月より吊る洋燈 大屋達治【季語=月(秋)】
  4. 【春の季語】春月
  5. 【クラファン目標達成記念!】神保町に銀漢亭があったころリターンズ【17】/三代川次郎(「春耕」「銀漢」「雲の峰」同人)
  6. プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ 石田波郷【季語=夏来る(夏)】
  7. 「パリ子育て俳句さんぽ」【7月9日配信分】
  8. 野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな 永田耕衣【季語=野分(秋)】
  9. 【夏の季語】ラベンダー
  10. 【夏の季語】黴
PAGE TOP