連載・よみもの

趣味と写真と、ときどき俳句と【#04】原付の上のサバトラ猫

趣味と写真と、ときどき俳句と
【#04】原付の上のサバトラ猫

青木亮人(愛媛大学准教授)


いつものように散歩していると、あるマンションの駐車場に猫がいるのを見かけた。そのマンションは一階が車や原付、自転車を駐めるスペースになっており、猫は原付の座席シートの上で眠そうにしていた。

それとなく近づいてみると、猫は逃げる風もない。サバトラ猫で、人慣れしているらしく、座席上で香箱座りのまま両目を閉じかけ、うつらうつらしていた。

その時は眺めるだけで立ち去ったが、それからは散歩の時にマンションの前を通るようにし、1階の駐車スペースを覗くとよく猫を見かけた。何匹かいるらしく、猫たちはたいてい眠そうにしており、原付の座席シートや車のボンネットの上で眠そうにしている。

ある時も散歩の際にマンションの駐車スペースをのぞくと、例のサバトラ猫が原付の座席上で丸まっていた。静かに近づいてみると、猫は閉じかかったまぶたをほんの少し開き、再び目を閉じてうつらうつらし始めた。

私は少し間を置いてから近づき、猫の頭の方へ静かに手を差し伸べ、そっと撫でてみた。猫は一瞬ピクッとしたが、その後はされるがままだった。頭の上から耳の後ろのあたりを柔らかく撫でると、目を閉じながら気持ちよさそうにしていた。

写真を撮った時も、午後のサバトラ猫は原付の上で眠そうにしていた。確か、コシナのNokton Classic(ノクトン・クラシック)のレンズで撮ったと思う。曇り気味の日で、駐車スペースには人気もなく、ひっそりしていた。私は猫の身体が呼吸とともに静かに上下するのをしばらく眺め、写真を撮り、午後の眠気を乱さないようにそっと立ち去った。

撮影=青木亮人(禁無断転載)

【次回は2月28日ごろ配信予定です】


【執筆者プロフィール】
青木亮人(あおき・まこと)
昭和49年、北海道生れ。近現代俳句研究、愛媛大学准教授。著書に『近代俳句の諸相』『さくっと近代俳句入門』など。


【「趣味と写真と、ときどき俳句と」バックナンバー】
>>[#3] Sex Pistolsを初めて聴いた時のこと
>>[#2] 猫を撮り始めたことについて
>>[#1] 「木綿のハンカチーフ」を大学授業で扱った時のこと



【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 【連載】「ゆれたことば」#3「被災地/被災者」千倉由穂
  2. 「野崎海芋のたべる歳時記」鯛の塩釜焼き
  3. 笠原小百合の「競馬的名句アルバム」【第5回】2013年有馬記念・…
  4. 【短期連載】茶道と俳句 井上泰至【第8回】
  5. 「パリ子育て俳句さんぽ」【11月27日配信分】
  6. 神保町に銀漢亭があったころ【第68回】堀田季何
  7. 神保町に銀漢亭があったころ【第76回】種谷良二
  8. 趣味と写真と、ときどき俳句と【#05】勉強の仕方

おすすめ記事

  1. 世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし【季語=朝寝(春)】
  2. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第69回】 東吉野村と三橋敏雄
  3. 【冬の季語】人参
  4. アカコアオコクロコ共通海鼠語圏  佐山哲郎【季語=海鼠(冬)】
  5. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2021年9月分】
  6. 絵杉戸を転び止まりの手鞠かな 山崎楽堂【季語=手鞠(新年)】
  7. 神保町に銀漢亭があったころ【第12回】佐怒賀正美
  8. 【春の季語】雛祭
  9. 神保町に銀漢亭があったころ【第68回】堀田季何
  10. 噴水に睡り足らざる男たち  澤好摩【季語=噴水(夏)】

Pickup記事

  1. 【新年の季語】元旦
  2. 尺蠖の己れの宙を疑はず 飯島晴子【季語=尺蠖(夏)】
  3. なにがなし善きこと言はな復活祭 野澤節子【季語=復活祭(春)】
  4. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第50回】 黒部峡谷と福田蓼汀
  5. 馬鈴薯の顔で馬鈴薯掘り通す 永田耕衣【季語=馬鈴薯(秋)】
  6. 神保町に銀漢亭があったころ【第104回】坂崎重盛
  7. 【冬の季語】マスク
  8. 【秋の季語】銀漢
  9. 【冬の季語】冬滝
  10. 春星や言葉の棘はぬけがたし 野見山朱鳥【季語=春星(春)】
PAGE TOP