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昨日より今日明るしと雪を掻く 木村敏男【季語=雪を掻く(冬)】

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昨日より今日明るしと雪を掻く

木村敏男


今頃になると「暦の上では春となりましたが」という台詞が気象情報の番組などでよく聞かれる。そのあとに続くのはたいてい「日本海側では大雪になるでしょう」というようなこと。雪国では立春を過ぎても風景はまったく変わらず、雪を掻く日常が続くのである。

どこかの句会の先生が「立春を過ぎたら『春の雪』としなければいけません」と言っていたと聞いたことがある。たしかに歳時記の季節区分を重視するなら「春の雪」となるだろうが、一方で季語の本意からいえば、雪掻きが必要なほどの雪を「春の雪」とは呼べないだろうとも思う。どちらを取るかは、結局は作者次第ということだ。

というわけで、今日は雪の句。

 昨日より今日明るしと雪を掻く

この句をはじめて見たのは、たぶんまだ俳句を作り始めていないころ、新聞の一句鑑賞の欄だったと思う。当時から少しは俳句というものに興味があったので、この欄はときどき読んでいた。

それから雪掻きのときにはよくこの句を思い出していたのだが、なぜか《今日よりも明日明るしと雪を掻く》と記憶してしまっていた。最近見直して、間違いに気づいたのである。

おそらく当時の私には、「今日よりも明日」という感覚が強かったのだろう。今よりはずっと若かったし、明日に期待するものがたくさんあったからだ。だが今なら掲句の方がしっくりくる。未来より過去の分量が多いことはもう確定していて、明日がどうなるかはわからないような年代になった。せめて言えることは、昨日より今日が明るければいいということだ。

作者の木村敏男がこの句を作ったのは、1982年、59歳のとき。今の私と同じ年だ。木村は森澄雄の「杉」同人を経て、1978年に札幌で「にれ」を創刊主宰している。それから4年たち、おそらく充実した日々を送っていたのだろうが、きっと作者も雪掻きをしながら「明日」よりも「今日」を強く感じていたにちがいない。

雄心(おごころ)」(1984年)所収。

鈴木牛後


【執筆者プロフィール】
鈴木牛後(すずき・ぎゅうご)
1961年北海道生まれ、北海道在住。「俳句集団【itak】」幹事。「藍生」「雪華」所属。第64回角川俳句賞受賞。句集『根雪と記す』(マルコボ.コム、2012年)『暖色』(マルコボ.コム、2014年)『にれかめる』(角川書店、2019年)


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