エッフェル塔見ゆる小部屋に雛飾り柳田静爾楼【季語＝雛飾り（春）】

ハイクノミカタ

エッフェル塔見ゆる小部屋に雛飾り　柳田静爾楼【季語＝雛飾り（春）】

2024/3/8
ハイクノミカタ, 塚本武州
1893年生まれ, 1993年没, JAL, 「ホトトギス」, に, エッフェル塔, 小部屋, 日本航空, 春の季語, 柳田静爾楼, 見ゆ, 見ゆる, 雛飾り

エッフェル塔見ゆる小部屋に雛飾り

柳田静爾楼

　今年はパリオリンピック・パラリンピックの年である。今週月曜日、公式ポスターがオルセー美術館に発表された。制作を担当したのは、カラフルな作風が特徴のパリのイラストレーター、ウーゴ・ガットーニ。２０２３年９月１９日～２０２４年１月１９日の期間、合計２,０００時間を費やして、パリ２０２４オリンピック・パラリンピックの永遠のシンボルとなる２つのポスターを制作した。公式ポスターは左がオリンピック、右がパラリンピックの、２枚でひとつの絵となっていて、カラフルで精密な絵の中心部にはエッフェル塔と、メイン会場のスタッド・ド・フランスが描かれている。また、マラソンやボルダリングなど、それぞれの競技が、多くの観客とともに書き込まれているほか、「フリージュ」と名付けられた大会のマスコットも、８か所に隠れて描かれている。

エッフェル塔見ゆる小部屋に雛飾り　柳田静爾楼

　掲句の作者柳田静爾楼（１８９３年９月２日～１９９３年１１月１８日）、本名誠二郎は東京大学法学部経済学科を卒業し、日本銀行の副総裁まで上り詰めたエリートである。ただ、１９４６年（昭和２１年）、国の外資事業の責任者だったことから公職追放を受け、日銀を去る。追放中に計理士（現在の公認会計士）の免許を取得し、自宅に事務所を構える。１９５１年（昭和２６年）追放解除後、日本航空の社長に就任した。

　この略歴から思い出したのだが、エッフェル塔の近くに日航ホテル（ニッコー・ド・パリ）があった。１９７６年４月にホテル・ニッコー・ド・パリが開業し、２００２年１月にフランス系のノボテル・パリ・ツール・エッフェルに改称したが、掲句は日航ホテル時代に作られたものだろう。つまり、エッフェル塔が見える小部屋（ニッコー・ド・パリの客室）に、雛人形が飾られていたと詠める。ニッコー・ド・パリは、プティ・ジャポンの如く、衛星放送でNHK紅白歌合戦が見ながら年越し、高級日本食レストラン「弁慶」のお節料理で新年を祝う、欧州に駐在員する日本人にとって日本を感じる憩いの場所であった。３月には雛人形が飾られ、トリコロールの菱餅が置かれている。掲句は、フランスと日本をうまく融合した、とても愉快な句である。

　私が最後にフランスに行ってからだいぶ時が経った。パリの街並みもあれからだいぶ変わったであろう。そろそろ記憶を上書きするためにパリへ行こうか、しかもJALで、そんなことも裏読みさせる句である。ボン・ウィークエンド！

（塚本武州）

【執筆者プロフィール】
塚本武州（つかもと・ぶしゅう）
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、２０２１年４月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。国立市在住。妻と白猫（ユキ）の３人暮らし。

【塚本武州のバックナンバー】
＞＞〔57〕三月の旅の支度にパスポート　千原草之
＞＞〔56〕春一番競馬新聞空を行く　水原春郎
＞＞〔55〕いつ渡そバレンタインのチョコレート　田畑美穂女
＞＞〔54〕針供養といふことをしてそと遊ぶ　後藤夜半
＞＞〔53〕屋根の上に明るき空やパリの春　コンラツド・メイリ
＞＞〔52〕雪が来るうさぎの耳とうさぎの目　青柳志解樹
＞＞〔51〕真っ白な息して君は今日も耳栓が抜けないと言う　福田若之
＞＞〔50〕什器全て鈍器に見えて冬籠　今井聖
＞＞〔49〕初旅の富士より伊吹たのもしき　西村和子
＞＞〔48〕ポテサラの美味い雀荘大晦日　北大路翼
＞＞〔47〕絶叫マシーンに未婚既婚の別なく師走　村越敦
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＞＞〔42〕あたゝかき十一月もすみにけり　中村草田男
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＞＞〔38〕新蕎麦のそば湯を棒のごとく注ぎ　鷹羽狩行
＞＞〔37〕コスモスや泣きたくなつたので笑ふ　吉田林檎
＞＞〔36〕月かげにみな美しき庭のもの　稲畑汀子
＞＞〔35〕ラグビーのゴールは青き空にあり　長谷川櫂
＞＞〔34〕コスモスを愛づゆとりとてなきゴルフ　大橋晄
＞＞〔33〕秋めくや焼鳥を食ふひとの恋　　石田波郷
＞＞〔32〕めちやくちやなどぜうの浮沈台風くる　秋元不死男
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＞＞〔28〕鬼灯市雷門で落合うて　　　　田中松陽子
＞＞〔27〕買はでもの朝顔市も欠かされず　篠塚しげる
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＞＞〔24〕紫陽花のパリーに咲けば巴里の色　星野椿
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＞＞〔16〕晴れ曇りおほよそ曇りつつじ燃ゆ　篠田悌二郎
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＞＞〔9〕雛節句一_ト夜過ぎ早や二_タ夜過ぎ　　星野立子
＞＞〔8〕百代の過客しんがりに猫の子も　　加藤楸邨
＞＞〔7〕春光のステンドグラス天使舞ふ　　　森田峠
＞＞〔6〕謝肉祭の仮面の奥にひすいの眼　　石原八束
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＞＞〔2〕福笹につけてもらひし何やかや　　　高濱年尾
＞＞〔1〕一月や去年の日記なほ机辺　　　　　高濱虚子