山羊群れて夕立あとの水ほとり江川三昧【季語＝夕立（夏）】

ハイクノミカタ

山羊群れて夕立あとの水ほとり江川三昧【季語＝夕立（夏）】

2022/7/8
ハイクノミカタ, 阪西敦子
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山羊群れて夕立あとの水ほとり

江川三昧(えがわ・さんまい))

梅雨明の灼熱の一週間が過ぎて、今週からやや涼しくなった東京。昨日なんてちょっと風は秋っぽいときもありましたが、七夕（新暦）を過ぎました。わが町・阿佐ヶ谷は、コロナ以前は歩行者が触れて通るような飾りが出ていた七夕推しの町ですが、今年は商店街の両サイドに短冊付きの笹が点々と。町の七夕は旧暦（最近は伝統的七夕などと呼ぶそうで）で行うので、まだまだ続きます。

なので、七夕の句は来月にするとして、鹿郎→雉子郎と続く（自分でやってるんですが）うちに、ちょっと俳号が気になってきてしまったので、今日は「インパクト強め俳号しばり」でお届けします。

山羊群れて夕立あとの水ほとり

「さんまい」と読むらしい三昧は、明治二十七年広島の生まれ。下関商業学校を卒業後満鉄に入社。この句集発刊時点では奉天の在住。また、大連で創刊された「平原」の雑詠選者を、以前に取り上げた岩木躑躅から継承している。

句は「夕立」。であるけれど、もう止んだあとのこと。この句を見ると、夕立とは、降りだすことはもちろんだけれど、止むことについて、多くを含む季題だなと、改めて思う。そういう意味では、ざっと降ってさっとやむ「伝統的」夕立なんて、もう、降らないのかもしれないねと言う話を、友人としたばかりだけれど、果たしてどうだろう。

三昧の句には山羊、驢馬、馬がたびたび登場。その点も、鹿郎、雉子郎のあとにふさわしいかどうかはさておき、それらは多く、広々とした空間を連れてやってくる。「夕立あとの水ほとり」という、どのくらいの広さかわからないものに、「山羊群れて」が先立つことで、例えば、不忍池でもなく、阿佐ヶ谷の金魚釣り堀でもない広がりを味わえる。

次の七夕が来て夏が終わるまで、それでも夕立を待ちつつ、週末も過ごそうと思います。

『ホトトギス同人句集』（1938年）

（阪西敦子）

【執筆者プロフィール】
阪西敦子（さかにし・あつこ）
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。

【阪西敦子のバックナンバー】

＞＞〔92〕思ひ沈む父や端居のいつまでも             石島雉子郎
＞＞〔91〕麦藁を束ねる足をあてにけり                    奈良鹿郎
＞＞〔90〕はしりすぎとまりすぎたる蜥蜴かな        京極杞陽
＞＞〔89〕船室の梅雨の鏡にうつし見る　　　　　日原方舟
＞＞〔88〕さくらんぼ洗ひにゆきし灯がともり　　千原草之
＞＞〔87〕おやすみ
＞＞〔86〕まどごしに與へ去りたる螢かな　　　久保より江
＞＞〔85〕日蝕の鴉落ちこむ新樹かな　　　　　石田雨圃子
＞＞〔84〕白牡丹四五日そして雨どつと　　　　高田風人子
＞＞〔83〕春暁のカーテンひくと人たてり　　　久保ゐの吉
＞＞〔82〕かゝる世もありと暮しぬ春炬燵　　　松尾いはほ
＞＞〔81〕纐纈の大座布団や春の宵　　　　　　真下喜太郎