ハイクノミカタ

晴れ曇りおほよそ曇りつつじ燃ゆ 篠田悌二郎【季語=躑躅(春)】


晴れ曇りおほよそ曇りつつじ燃ゆ

篠田悌二郎

 今週、軽井沢へ仕事で行ってきた。ちょうどG7外務大臣会合が行われていたので、駅前は警備車両が多かったが、アウトレットモールが臨時休館だったので閑散としていた。到着した時の天気は曇り。気温が10度と肌寒く、ジャケットの下にカーディガンを着てちょうど良かった。桜はまだ見ごろに思えたが、地元の方いわく先週の方が満開だったとのこと。もう少し暖かく、黄砂がなければもっと良かったのにと思えた。タクシーの運転手が「今朝洗車したのに」とぼやいていた通り、車体には墨汁を散らしたような黄砂の跡が付着していた。そんな中でも、色鮮やかに迎えてくれたのが躑躅である。最近、桜ばかりを気にして歩いていたので、満開の躑躅に気付き驚いた。いつの間にこんなに躑躅がという印象である。

  晴れ曇りおほよそ曇りつつじ燃ゆ 篠田悌二郎

 掲句は移りゆく春の空と咲き誇る躑躅の景が浮かぶ。この句の面白いところは、色の移り変わりではないだろうか。晴れた青空にだんだんと雲が出てきて、空の大部分が灰色の雲に覆われ、その曇天の中、躑躅が燃えるように咲いている。色を並べると、青空、白い雲、灰色の雲、燃える躑躅の紅色。空と躑躅が「空間の広さ」、晴れから曇り、おおよそ曇りが「時間の流れ」を表し、空間と時間をうまく調和している。水原秋桜子は中七「おほよそ曇り」を「実に入念な技巧」と称賛している。

 今日4月21日は、篠田悌二郎の忌日、春蟬忌である。篠田悌二郎(1899年7月27日~1986年4月21日)は、東京都文京区生まれ。1924年に句作を始め、水原秋桜子を師事。「破魔矢」「馬酔木」に投句し同人となる。その後、1936年「初鴨」創刊し主宰、1946年「野火」を創刊し主宰となる。作風は、清新さと繊細な抒情は「馬酔木」でも右に出るものがいなかったという。自然や風景だけでなく、人間も詠み、ユニークな人生風詠を示す句が多い(『現代俳句大辞典 三省堂』)。

  木の椅子を蜂ふちつたひ逝く春ぞ 篠田悌二郎

 木椅子の縁を蜂が歩いている。蜂は滑りやすく狭い幅を縁づたいに歩く緊張感がある。作者はその行方を見守りながら、春を見送る思いを重ねている。中七「蜂ふちつたひ」が蜂のたどたどしい歩みと小刻みなリズムを奏でるところが面白い。

 俳句界では、5月から夏なので、あと残り2週間が「行春」である。もう春が終わりかと惜しむ気持ちはあるが、今年最後の春を楽しむ旅に出ようかな。では、良い週末を。

塚本武州


【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。神戸市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。

【塚本武州のバックナンバー】

>>〔15〕山又山山桜又山桜      阿波野青畝
>>〔14〕春風や闘志いだきて丘に立つ  高浜虚子
>>〔13〕行く雁を見てゐる肩に手を置かれ 市村不先
>>〔12〕梅咲きぬ温泉は爪の伸び易き  梶井基次郎
>>〔11〕こぼれたる波止の鮊子掃き捨てる 桑田青虎
>>〔10〕とれたてのアスパラガスのやうな彼 山田弘子
>>〔9〕雛節句一夜過ぎ早や二夜過ぎ  星野立子
>>〔8〕百代の過客しんがりに猫の子も  加藤楸邨
>>〔7〕春光のステンドグラス天使舞ふ   森田峠
>>〔6〕謝肉祭の仮面の奥にひすいの眼  石原八束
>>〔5〕バー温し年豆妻が撒きをらむ    河野閑子
>>〔4〕初場所の力士顚倒し顚倒し     三橋敏雄
>>〔3〕わが知れる阿鼻叫喚や震災忌    京極杞陽
>>〔2〕福笹につけてもらひし何やかや   高濱年尾
>>〔1〕一月や去年の日記なほ机辺     高濱虚子

【初代金曜日・阪西敦子のバックナンバー】

>>〔118〕【最終回】なぐさめてくるゝあたゝかなりし冬    稲畑汀子
>>〔117〕クリスマスイヴの始る厨房よ                千原草之
>>〔116〕傾けば傾くまゝに進む橇                         岡田耿陽
>>〔115〕風邪ごもりかくし置きたる写真見る     安田蚊杖
>>〔114〕舟やれば鴨の羽音の縦横に                    川田十雨
>>〔113〕つはの葉につもりし雪の裂けてあり     加賀谷凡秋
>>〔112〕毛帽子をかなぐりすててのゝしれる     三木朱城
>>〔111〕牡蠣舟やレストーランの灯をかぶり      大岡龍男
>>〔110〕梁折れて頬を打つあり鶉追ふ                三溝沙美
>>〔109〕桔梗やさわや/\と草の雨                楠目橙黄子
>>〔108〕鳥屋の窓四方に展けし花すゝき         丹治蕪人
>>〔107〕秋めくやあゝした雲の出かゝれば          池内たけし
>>〔106〕コスモスのゆれかはしゐて相うたず      鈴鹿野風呂
>>〔105〕淋しさに鹿も起ちたる馬酔木かな      山本梅史
>>〔104〕蜩や久しぶりなる井の頭                     柏崎夢香
>>〔103〕おやすみ
>>〔102〕月代は月となり灯は窓となる         竹下しづの女
>>〔101〕おやすみ
>>〔100〕おやすみ
>>〔99〕おやすみ
>>〔97〕七夕のあしたの町にちる色帋               麻田椎花
>>〔96〕大阪の屋根に入る日や金魚玉                 大橋櫻坡子
>>〔95〕盥にあり夜振のえもの尾をまげて          柏崎夢香
>>〔94〕行く涼し谷の向うの人も行く                  原石鼎
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>>〔92〕思ひ沈む父や端居のいつまでも             石島雉子郎
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>>〔52〕子規逝くや十七日の月明に      高浜虚子
>>〔51〕えりんぎはえりんぎ松茸は松茸   後藤比奈夫
>>〔50〕横ざまに高き空より菊の虻      歌原蒼苔
>>〔49〕秋の風互に人を怖れけり       永田青嵐
>>〔48〕蟷螂の怒りまろびて掃かれけり    田中王城
>>〔47〕手花火を左に移しさしまねく     成瀬正俊
>>〔46〕置替へて大朝顔の濃紫        川島奇北
>>〔45〕金魚すくふ腕にゆらめく水明り    千原草之
>>〔44〕愉快な彼巡査となつて帰省せり    千原草之
>>〔43〕炎天を山梨にいま来てをりて     千原草之
>>〔42〕ール買ふ紙幣(さつ)をにぎりて人かぞへ  京極杞陽
>>〔41〕フラミンゴ同士暑がつてはをらず  後藤比奈夫
>>〔40〕夕焼や答へぬベルを押して立つ   久保ゐの吉

>>〔39〕夾竹桃くらくなるまで語りけり   赤星水竹居
>>〔38〕父の日の父に甘えに来たらしき   後藤比奈夫
>>〔37〕麺麭摂るや夏めく卓の花蔬菜     飯田蛇笏
>>〔36〕あとからの蝶美しや花葵       岩木躑躅
>>〔35〕麦打の埃の中の花葵        本田あふひ
>>〔34〕麦秋や光なき海平らけく       上村占魚
>>〔33〕酒よろしさやゑんどうの味も好し   上村占魚
>>〔32〕除草機を押して出会うてまた別れ   越野孤舟
>>〔31〕大いなる春を惜しみつ家に在り    星野立子
>>〔30〕燈台に銘あり読みて春惜しむ     伊藤柏翠
>>〔29〕世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし
>>〔28〕ネックレスかすかに金や花を仰ぐ  今井千鶴子
>>〔27〕芽柳の傘擦る音の一寸の間      藤松遊子
>>〔26〕日の遊び風の遊べる花の中     後藤比奈夫
>>〔25〕見るうちに開き加はり初桜     深見けん二
>>〔24〕三月の又うつくしきカレンダー    下田実花
>>〔23〕雛納めせし日人形持ち歩く      千原草之
>>〔22〕九頭龍へ窓開け雛の塵払ふ      森田愛子
>>〔21〕梅の径用ありげなる人も行く    今井つる女

>>〔20〕来よ来よと梅の月ヶ瀬より電話   田畑美穂女
>>〔19〕梅ほつほつ人ごゑ遠きところより  深川正一郎
>>〔18〕藷たべてゐる子に何が好きかと問ふ  京極杞陽
>>〔17〕酒庫口のはき替え草履寒造      西山泊雲
>>〔16〕ラグビーのジヤケツの色の敵味方   福井圭児
>>〔15〕酒醸す色とは白や米その他     中井余花朗
>>〔14〕去年今年貫く棒の如きもの      高浜虚子
>>〔13〕この出遭ひこそクリスマスプレゼント 稲畑汀子
>>〔12〕蔓の先出てゐてまろし雪むぐら    野村泊月
>>〔11〕おでん屋の酒のよしあし言ひたもな  山口誓子
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>>〔2〕クッキーと林檎が好きでデザイナー  千原草之
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