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秋めくやあゝした雲の出かゝれば      池内たけし【季語=秋めく(秋)】

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秋めくやあゝした雲の出かゝれば

池内たけし(いけうち・たけし))


こないだの週末、三連休の一日にふたたび三〇度近くまで気温が上がった東京、しかし、立冬まで1か月を切った東京(だけじゃないけれど)、着るものに困る日々が続きます。

ちなみに今日は、薄手のセーターを着てこれを書いています。

立冬や晩秋やというのは暦の上のことだから、確かにねえと日差しの傾きを見ていればいいことだけれど、秋めくっていうのはなかなかむずかしく。

基準は温度なの、湿度なの、明度なの、金木犀なの、秋刀魚なの、里芋なの、モンブランなのと千々に乱れる少し余裕のない私に…

秋めくやあゝした雲の出かゝれば

たけし坊ちゃん…そうでございましたか、お敦が取り乱してしまって、大変失礼いたしました。

「ああした」という鷹揚なほぼ何も言ってないような指示語に、さらには「出かかって」いるという、まだ完全には出ているわけではない雲を指さして、秋めいてまいりましたなあ、それこそが「秋めく」なのだと。1句に二度も出てくる「ゝ」も、句をますます切れ切れにして、それがそのままちぎれた雲のようにも感じられる。

もちろん、何も言っていないようだけれど、その雲の遠さ、空の高さは感じられる。この句の眼目(という言葉が本当に不似合いだけれど)は、そのとらえどころなく広がる空の様子だろう。

鋭い句はもちろんすごいのだけど、一方で、この何もとらえさせない句への憧れは捨てがたい。

隣り合う句にも「ゝ」が。

鉦叩今宵はたゝきつゞけゝり

これ、読みやすい?というのが正直な感想だけれど、慣れている人にはそうでもないのだろう。鉦叩のぷつぷつした鳴きようをすこし遊んだのかもしれない。この句を覚えておけば、虫の音を聞き分けるときに鉦叩を間違えることはない(だろう)。能楽の家に生まれたたけしの句らしくもある。

星野立子などにも多い踊り字の表記だけれど、この句集でのたけしの句に全体的に多いわけではない。10句から14句で構成される各シーズンの踊り字の数は春0、夏1、秋7、冬3、秋の7カ所のうち、5カ所は上の2句に含まれている。

秋めくとはやゝとぎれることなのですよと、言われているようなこゝちです。

週末はひさびさの晴れつゞきとか、ちゞなるこゝろも少し休めて穏やかにお過ごしくださいませ。

『ホトトギス同人句集』(1938年)

阪西敦子


金曜日の種本はこちら↑(早い者勝ちです)

【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。

【阪西敦子のバックナンバー】

>>〔106〕コスモスのゆれかはしゐて相うたず      鈴鹿野風呂
>>〔105〕淋しさに鹿も起ちたる馬酔木かな      山本梅史
>>〔104〕蜩や久しぶりなる井の頭                     柏崎夢香
>>〔103〕おやすみ
>>〔102〕月代は月となり灯は窓となる         竹下しづの女
>>〔101〕おやすみ
>>〔100〕おやすみ
>>〔99〕おやすみ
>>〔97〕七夕のあしたの町にちる色帋               麻田椎花
>>〔96〕大阪の屋根に入る日や金魚玉                 大橋櫻坡子
>>〔95〕盥にあり夜振のえもの尾をまげて          柏崎夢香
>>〔94〕行く涼し谷の向うの人も行く                  原石鼎
>>〔93〕山羊群れて夕立あとの水ほとり            江川三昧
>>〔92〕思ひ沈む父や端居のいつまでも             石島雉子郎
>>〔91〕麦藁を束ねる足をあてにけり                    奈良鹿郎
>>〔90〕はしりすぎとまりすぎたる蜥蜴かな        京極杞陽
>>〔89〕船室の梅雨の鏡にうつし見る     日原方舟
>>〔88〕さくらんぼ洗ひにゆきし灯がともり  千原草之
>>〔87〕おやすみ
>>〔86〕まどごしに與へ去りたる螢かな   久保より江
>>〔85〕日蝕の鴉落ちこむ新樹かな     石田雨圃子
>>〔84〕白牡丹四五日そして雨どつと    高田風人子
>>〔83〕春暁のカーテンひくと人たてり   久保ゐの吉
>>〔82〕かゝる世もありと暮しぬ春炬燵   松尾いはほ
>>〔81〕纐纈の大座布団や春の宵      真下喜太郎

>>〔80〕先生はいつもはるかや虚子忌来る  深見けん二
>>〔79〕夜着いて花の噂やさくら餅      關 圭草
>>〔78〕花の幹に押しつけて居る喧嘩かな   田村木國
>>〔77〕お障子の人見硝子や涅槃寺      河野静雲
>>〔76〕東京に居るとの噂冴え返る      佐藤漾人
>>〔75〕落椿とはとつぜんに華やげる     稲畑汀子
>>〔74〕見てゐたる春のともしびゆらぎけり 池内たけし
>>〔73〕諸事情により、おやすみ
>>〔72〕春雪の一日が長し夜に逢ふ      山田弘子
>>〔71〕早春や松のぼりゆくよその猫    藤田春梢女
>>〔70〕よき椅子にもたれて話す冬籠    池内たけし
>>〔69〕犬去れば次の犬来る鳥総松     大橋越央子
>>〔68〕左義長のまた一ところ始まりぬ      三木
>>〔67〕絵杉戸を転び止まりの手鞠かな    山崎楽堂
>>〔66〕年を以て巨人としたり歩み去る     高浜虚子
>>〔65〕クリスマス近づく部屋や日の溢れ  深見けん二
>>〔64〕突として西洋にゆく暖炉かな     片岡奈王
>>〔63〕茎石に煤をもれ来る霰かな      山本村家
>>〔62〕山茶花の日々の落花を霜に掃く    瀧本水鳴
>>〔61〕替へてゐる畳の上の冬木影      浅野白山
>>〔60〕木の葉髪あはれゲーリークーパーも  京極杞陽

>>〔59〕一陣の温き風あり返り花       小松月尚
>>〔58〕くゝ〳〵とつぐ古伊部の新酒かな   皿井旭川
>>〔57〕おやすみ
>>〔56〕鵙の贄太古のごとく夕来ぬ      清原枴童
>>〔55〕車椅子はもとより淋し十三夜     成瀬正俊
>>〔54〕虹の空たちまち雪となりにけり   山本駄々子
>>〔53〕潮の香や野分のあとの浜畠     齋藤俳小星
>>〔52〕子規逝くや十七日の月明に      高浜虚子
>>〔51〕えりんぎはえりんぎ松茸は松茸   後藤比奈夫
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>>〔4〕火達磨となれる秋刀魚を裏返す    柴原保佳
>>〔3〕行秋や音たてて雨見えて雨      成瀬正俊
>>〔2〕クッキーと林檎が好きでデザイナー  千原草之
>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月      松藤夏山




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