ネックレスかすかに金や花を仰ぐ 今井千鶴子【季語=花(春)】

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ネックレスかすかに金や花を仰ぐ

今井千鶴子(いまいちづこ)

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昨日、四月八日は高濱虚子忌。亡くなってから六十二年が経った。

去年も今年も一門の虚子忌は中止されて、集まって今年の桜の遅速を言いあう機会もない。失われてあらためて思うけれど、これほど、毎年決まった日の天気・天候を記憶にとどめ、過ぎてきた同じ日のことを思い出す日は他にはない。集う人々のほとんどは、何の血のつながりもない同士だけれど、何年前のあの人の句のこと、何年前に縁側から落ちたあの人のこと、あの時はいたけれど今日はいない人のこと、虚子という一人の忌日を超えて、何と言えばいいのだろう、そう、まさに一門が一門のことを思う日となっている。

みなさん、虚子忌翌日の金曜ですよ。って、言われても困りますよね。

ほとんどは何の血のつながりもない同士だけど、この句の作者、今井千鶴子は虚子の縁戚だ。何回、説明されてもその関係性が分からなくなってしまうので、読んでいるみなさんもそんな私に説明されても分からなくなってしまうだろう。本当に知りたい人は、どこかで調べてほしい。

早々と葉桜になった東京はもちろん、本州も関東以西はすでに桜が散って、私も先週は芽柳なんかを取り上げたりしたけれど、虚子忌はなんとなく花の日。これから、各地で花時を迎える、広々として落ち着いた桜には、この句が合う。

  ネックレスかすかに金や花を仰ぐ

仰いでいるその花ではなく、その視線ではなく、その仰ぐ人の首元のネックレスに焦点がある。真珠でもエメラルドでもルビーでもなく、ゴールドのそれも「かすかに」という。材質の純度というよりは、輝き。その日の桜の明るさや、空の様子、あるいはその人との距離。桜はほぼ満開でやや散り始め、そのひとの視線をひきつける。空は暗くはないが、青空は少なく、やや花冷、こちらからはその人物の上半身が目に収まるくらいというのが私の描いたこの句の景。読む人によって、これまでの体験の違いから描く景色は違うだろうけれど、きっとどの人の視界にもその人なりのくっきりとした景が立ち上がるはずだ。「ネックレスかすかに金」の想起力のなせる業だ

句は今年からちょうど四十年前に作られた。虚子没後二十二年目は、今よりずっとその存在感が残っていただろう。これは、忌日翌日の私のセンチメンタルな鑑賞に他ならないが、花を仰ぐその…いや、やめておこう。

これから開花を迎える桜にもおだやかな一週間となりますように。

『梅丘』(1995年)所収

阪西敦子


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【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。



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