ストーブに判をもらひに来て待てる 粟津松彩子【季語=ストーブ(冬)】


ストーブに判をもらひに来て待てる

粟津松彩子(あわづしょうさいし))


今週に入って急に冷え込んだ。といっても、最低気温が5℃前後、最高気温が10℃すこし、地域によっては大したことのない気温かも知れない。だけれど、小春日が続いたあとの、本格的な冬の気温は厳しい。

それでもみなさん、金曜はやってきますよ。

今週が寒いのは、準備ができていないからだ。体も、服も、部屋も。

もっと寒い日は先にあるだろう。だけれど、そのときは、今週ほど寒くは感じまい。

体は寒いのに慣れて、毎年寒さをしのいできた厚い服も 引っ張り出して、エアコンも掃除ができて絨毯も出して、ストーブ、そう、ストーブもどこかに。

絨毯にストーブがやや沈んで、そのつややかな毛足に火色を返す。冬用のカーテン、スリッパ、ひざ掛けの類もふんだんに。そんな、洋間で子供が学校のものに貰いに来る判。

あるいは、職場ということもできよう。ストーブの近くは暖かい席、どちらかと言えば贅沢な席に、若い社員が承認をもらいに来るのかもしれない。

いずれにしても、判を押してもらう間、一度戻るというほどのことではなくて、「押印」が主たる目的のよう。やり取りがあったとしても、うまくいってるの、はい、いってますくらいのものだろう。

押印をもらいに来る側も、そんな緊張感はなくて、押してもらう間、ストーブの近くにいられれば良いという具合。そんな気持ちも少し知りながら、やわらかな許しを与える判子。

ストーブはエアコンにとって代わられ、今回のコロナウイルスの流行に伴って、判子の文化も廃れ気味だ。「ストーブの脇に」「ストーブの近くの席に」といったあたりを「ストーブに」と省略して、後半は動詞の連続で豊かに描く。一見、そっけなく見える動作の中に行き交う冬のあたたかさ、この情緒はあと何年、冷めず味わえるんだろう。

同じ見開きに<人の肩越しに朝日がストーブに>がある。判子は出てこないけれど、人の肩越しというのも、コロナウイルスの世にはすこし懐かしい。

さあ、あたたかな週末が訪れますように。私はいろいろ防寒具を揃えます。

松彩子句集』所収 1979年、粟津松彩子・著

阪西敦子


【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。


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