【レッツカラオケ句会】

レッツカラオケ句会


最終回なので一句鑑賞を無視しよう。カラオケ句会やれば?

初学の頃からずっとやっているカラオケ句会とは、カラオケボックスで歌いながら句を作る句会。例えば11時から19時のフリータイムフリードリンクの部屋を予約して、弁当・お菓子・お酒など好きなものを持ち込む。入退出自由で、11時から昼ご飯のお寿司やパンを食べて俳句談義、13時頃から歌う。夏ならば夏歌を。歌詞に出てくる花火・日焼などの季語を拾ったり、映像に出てくる風景を、万緑・夏の雲・白靴と思ったり、何でもいい。夏歌が尽きたら冬の歌でも構わない。コートとマフラー姿の寒そうな映像が出たら「涼し」と思いつけばいい。

机の上には飲み物、お菓子、歳時記、メモ帳、短冊などごちゃごちゃ置かれている。3句出しと決めてどんどんメモしていく。人が歌ってる曲で句ができることもあるし、自分で歌いながら、ばしっと一句できることもある。歌詞に「風が吹く」「雨が降る」などと出てきても、俳句に不要な「吹く」「降る」を脳内で削除して、薫風・夕立に変換する。歌に何の関係もないものも浮かぶけど、良い句ができればそれでいい。歌いたくない人は歌わなくていいし、歌う人の曲を聴いて作ればいい。要するにカラオケボックスに居るのが嫌でなければそれでいい。

歌って休憩してまた歌うを繰り返し、17時頃から短冊を披露。多い人は20句ほど作る。ノルマは3句で、それ以上出してもいいし自由。短冊を回して良い句には◯をつけて選評する。無点も含めて全句選評する。
実際にカラオケ句会で作った句を紹介しよう。

田中目八(歌わない)
柏餅食ぶやことばの熱冷まし
虫籠にむつごとの雌飼はれあり

2025年こどもの日句会の差し入れが柏餅。ライブ映像でAdoが流れていた。

相田えぬ(歌う)
心臓をかじる夾竹桃に嘘
あたらしいおとうとはアカシアの花
泣きじゃくる浜昼顔を置いてゆく
2025年こどもの日句会。花の季語の苦手を克服し破調を作り中七に花の季語を入れるDAY

こうこ(歌う)
踊り子は夜汽車に去りて冬林檎
2017年「俳句界」の秀逸・佳作の句。句友Pさん十八番の村下孝蔵「踊り子」より

致死量のあたしの薔薇を見抜いてよ
2020年青山俳句工場05掲載 自分で歌った曲の背景に薔薇垣があった

ひとりカラオケをやることもある。その場合は歌いながら次の曲を入力し、気になる歌詞をメモしながら、パズルのように突然一句が出来上がる。初めは歌いやすい曲をピックアップして、高音と低音のどちらが出る日なのかを判別して選曲。慣らしつつ声量のいる曲に移行したり、結局2時間半で25曲連続で歌える。肺活量と俳筋力を鍛えてカロリーも消費できる、お得なひとりカラオケだ。
そんな無茶なと思うかも知れないが、持ち歌が決まっていれば案外できる。この忙しい作業の中で音程がずれないように歌うことによって、脳が活性化されて句ができる。

コロナ禍で句会がキャンセルになることがあり、体調不良の人がいれば、当日キャンセルで会議室代を全額支払うことが何度かあった。カラオケボックスなら開始10分前でもキャンセルできるので、人数よりも広い部屋を予約して、距離をとり歌わずに句会をすることもあった。そこからますますカラオケ句会が定着した。

邪道と思うかも知れないけど、吟行でなくても俳人が何かをすればそれは全て俳句に繋がる。スランプの時はひとりカラオケに行くことも多い。とにかく作る努力をすれば道は開ける。

レッツカラオケ句会!気が向いたらやれば?

有瀬こうこ


【執筆者プロフィール】
有瀬こうこ(ありせ・こうこ)
2016年12月作句開始。
いぶき俳句会所属。豆の木参加。
2023年第13回百年俳句賞最優秀賞。
2024年第30回豆の木賞。
2025年第8回俳句四季新人賞奨励賞。
2024年「えぬとこうこ」発売。
2025年末「えぬとこうこ2」発売予定。


【えぬとこうこ】
有瀬こうこと相田えぬが、お互いに苦手であろうお題を出し合った20句の連作3作品。
俳人の俳句質問30問コーナー。
ゲストは田中目八さん、藤田亜未さんで各20句。
https://watashiganakitai.booth.pm/items/6264249



【2025年6月のハイクノミカタ】
〔6月3日〕汽水域ゆふなぎに私語ゆづりあひ 楠本奇蹄
〔6月4日〕香水の中よりとどめさす言葉 檜紀代
〔6月5日〕蛇は全長以外なにももたない 中内火星
〔6月6日〕白衣より夕顔の花なほ白し 小松月尚
〔6月7日〕かきつばた日本語は舌なまけゐる 角谷昌子
〔6月8日〕螢火へ言わんとしたら湿って何も出なかった 平田修
〔6月9日〕水飯や黙つて惚れてゐるがよき 吉田汀史
〔6月10日〕銀紙をめくる長女の夏野がある 楠本奇蹄
〔6月11日〕触れあって無傷でいたいさくらんぼ 田邊香代子
〔6月12日〕檸檬温室夜も輝いて地中海 青木ともじ
〔6月13日〕滅却をする心頭のあり涼し 後藤比奈夫
〔6月14日〕夏の暮タイムマシンのあれば乗る 南十二国
〔6月15日〕あじさいの水の頭を出し闇になる私 平田修
〔6月16日〕水母うく微笑はつかのまのもの 柚木紀子
〔6月17日〕混ぜて扇いで酢飯かがやく夏はじめ 越智友亮
〔6月18日〕動くたび干梅匂う夜の家 鈴木六林男
〔6月19日〕ゆがんでゆく母語 手にとるものを、花を、だっけ おおにしなお
〔6月20日〕暑き日のたゞ五分間十分間 高野素十
〔6月21日〕菖蒲園こんな地図でも辿り着き 西村麒麟
〔6月22日〕葉の中に混ぜてもらって点ってる 平田修
〔6月24日〕レッツカラオケ句会

【2025年5月のハイクノミカタ】
〔5月1日〕天国は歴史ある国しやぼんだま 島田道峻
〔5月2日〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔5月3日〕ふらここの音の錆びつく夕まぐれ 倉持梨恵
〔5月4日〕春の山からしあわせと今何か言った様だ 平田修
〔5月5日〕いじめると陽炎となる妹よ 仁平勝
〔5月6日〕薄つぺらい虹だ子供をさらふには 土井探花
〔5月7日〕日本の苺ショートを恋しかる 長嶋有
〔5月8日〕おやすみ
〔5月9日〕みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花
〔5月10日〕熔岩の大きく割れて草涼し 中村雅樹
〔5月11日〕逃げの悲しみおぼえ梅くもらせる 平田修
〔5月12日〕死がふたりを分かつまで剝くレタスかな 西原天気
〔5月13日〕姥捨つるたびに螢の指得るも 田中目八
〔5月14日〕青梅の最も青き時の旅 細見綾子
〔5月15日〕萬緑や死は一弾を以て足る 上田五千石
〔5月16日〕彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に 今井千鶴子
〔5月17日〕飛び来たり翅をたゝめば紅娘 車谷長吉
〔5月18日〕夏の月あの貧乏人どうしてるかな 平田修
〔5月19日〕土星の輪涼しく見えて婚約す 堀口星眠
〔5月20日〕汗疹とは治せる病平城京 井口可奈
〔5月21日〕帰省せりシチューで米を食ふ家に 山本たくみ
〔5月22日〕胸指して此処と言ひけり青嵐 藤井あかり
〔5月23日〕やす扇ばり/\開きあふぎけり 高濱虚子
〔5月24日〕仔馬にも少し荷をつけ時鳥 橋本鶏二
〔5月25日〕海豚の子上陸すな〜パンツないぞ 小林健一郎
〔5月26日〕籐椅子飴色何々婚に関係なし 鈴木榮子
〔5月27日〕ソフトクリーム一緒に死んでくれますやうに 垂水文弥
〔5月28日〕蝶よ旅は車体を擦つてもつづく 大塚凱
〔5月29日〕ひるがほや死はただ真白な未来 奥坂まや
〔5月30日〕人生の今を華とし風薫る 深見けん二

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