振子のように五月へたまるこわれもの 金谷サダ子【季語=五月(夏)】


振子のように五月へたまるこわれもの
金谷サダ子

 五月。五月って。もう五月(しかも二十日!)ですって。五月で吸って、はいて、はあ。深呼吸してくださいね……☆。.:*・゜
さわやかなのに、どことなく不調の前兆みたいな季節な気がいたしますね。
 ある日、日傘をわすれて、あまりに眩しく、持っていた薄い水色の雨傘をさしてあるいたら、通りの木の葉の陰が傘にすらすら映って、おお、海だ、海中だ、水だ波紋だ、このなかにいたいなあ、もうこの傘から出ずに何処まででも行きたいよ、でも何処に?となるなどして、用事へ向かったものでした。ここは…………ぜんぜん都会のド真ん中です。

  五月抜け魚の昏らさでくる男 金谷サダ子

  出るときはひとり鱗の散る五月           

 わあ!やはり五月と海は接続している。ほんとうは地続きなのでしたね。

☆。.:*・゜

 掲句はすべて金谷サダ子句集『早口家族』(山河発行所・平成四年刊)より。

 世の中には「振り子の博覧会」なるものがあるらしい。動画を観てみたら、振り子って、ええ。なるほど、生きているみたい。生きているのかな、生きているというか、そのひとつひとつに異なる意思があるみたい。しかしながら、意思があるということは、生きているということなのかなあ。
 振り子は、ばらばらにもみえて、じつは(当たり前ですが)そうではなく、あとからあとから大きくつながってゆく。つらなってゆく。
 わたしたちもまた。冬の間の刺すような寒さの疲れにも、年度末のさみしさにも、新年度の慌ただしさですり減った何かにも、きょうをなんとか動いている自分と違うところで意思があり、それらは五月のすがすがしい風に乗じて、ややあってつながれてきて、いま、ぱちぱちと、自分の奥底からこちらをみている。どうしてくれようーという顔で。その時期、その時期に修繕できなかったからだが、こころが、ぼよぼよ五月に浮遊している。振り子のように、正しい遅れをとりながら、ここまで、こわれたままできてしまったみたい。
 こんなにいっぱい、どうしよう。
 まあでも、どうせこわれてしまっているのなら、あたらしくよいようになおしたい。それができなかったら、できなかったら……こわれたものでもかまいませんのトラックに、こわれたとこだけ引き取っていただきましょうね。おねがいしますー。

 五月病なんて言葉もあるけれど、病……なんて言われてしまうと、なんだかもっとかなしくなる。追いうちをかけないでほしいのね。外のお天気がこんなにいいことも、そんな陽気が大好きなこともわかっていて、このまま散歩にでも行ってしまいたいのに、行かれるわけもなく、なんだかすごく疲れて、何層にもつかれて、の心持ちは、まさにこれだなあと、いろいろ、こわれて、たまってしまっているだけなのだ……と深々と思ったのでした。深々となみだ・こわれているのに拾ってもらったみたいなうれしさがありました。五月というかろやかな季節のなかで、そのかろやかさを自分には取り込めず、重たくなってしまう日々が俳句になっていることに。

 掲句の作者である金谷サダ子さんは昭和四年生まれの俳人。俳句結社「山河」に所属されており、現在九十七歳になられています。 
 学生の頃、ひょんなことから(少女まんがのあらすじか)ご縁あって、金谷さんとお話をさせていただくようになり、いつか、お手元に二冊しか残っていないという句集『早口家族』をくださいました。金谷さんのお誕生日に発行された、薔薇の花束のような真紅の句集です。

 はじめて金谷さんの俳句を拝読したとき、さーっと目が覚めていくようにも、でもみたかった花だらけの庭にきたようにも感じて、手が震えたのをおぼえています。
 金谷さんはわたしがうまれる前から、ずっとずっとかき続けている。

  待たされた橋で花びらになってしまう 金谷サダ子

☆。.:*・゜

 はじめまして。おおにしなおと申します。
 
 「ハイクノミカタ」は、さまざまな書き手の方が、月曜日から日曜日まで、たくさんの俳句をどう受けとられたのか、そしてどう受けとったらよいのかをとてもていねいに示してくださっている場所です。そのようななかで、恐れ多いながら、だいぶ緊張ながら、初夏から梅雨の水曜日を担当させていただくこととなりました。
 ちょっとちからがいる週の半ば。すてきな俳句をご覧いただいたらば、あとは、文章のほうは、なかなか入れないお風呂の前の脱衣所で、明日もあるのにねむれない夜中で、作業しようと思って開いたのにゾンビスクロールしつづけているちいさな携帯で、僭越ながら、これ読んだら次いくか♪(または寝よか♪)の契機にしていただけましたら幸いです。どうぞ最後までおきがるにながめてください!
 まあ。おきがるに、というわりに、最後までの強要!なんと……。けっこう大きいことかいてしまって、心配です!つらつらかいてまいりますので、どうぞよしなに……☆。.:*・゜

おおにしなお


【執筆者プロフィール】
おおにしなお
平成十年、東京都生まれ。俳句をかきます。



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