蟷螂の怒りまろびて掃かれけり 田中王城【季語=蟷螂(秋)】

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蟷螂の怒りまろびて掃かれけり

田中王城(たなか・おうじょうまさとし))


何が始まって何が終わって、今、自分が何と何の間にいるのか、目まぐるしく移り変わるこのごろ、近づいてくる次の段階に向かう準備に気を取られるうちに、あっという間に初秋の終わりの金曜ですよ。

終業式と始業式の間があって、開会式と閉会式の間があって、一回目接種と二回目接種があって。しかもワクチンは、二回目のあと二週間して効果が確立するとか、三回目も必要だとか、始まって終わるものよりはやや複雑だ。

 蟷螂の怒りまろびて掃かれけり

こちらの蟷螂(=かまきり)の状態変化も三段階。蟷螂が怒っている。それは鎌を振り上げた、お決まりのポーズ。そして、転ぶ。風だろうか、長い脚がもつれたのだろうか。折あしく、そこには箒が現れて、あわれ、蟷螂は掃かれてしまうのでした。

動詞の連続によって、対象の変化を描くために、説明的・散文的となることを避けるのは難しい。この句では、やや単調な構成の中に、「怒り」のあとの、「まろび」、「掃かれ」への展開の呆気なさによって、単調さをやや逃れているだろうか。蟷螂自身も、その変化の速さに飲み込まれているようだ。

ワクチン接種の備えとして、アイスクリームがいいとか、ゼリーが助かるとか、そんなメモをもって買い物に行ったものの、結局買ったのは缶詰のスープに豆腐に真空パックの煮物。結局、すぐ怒る蟷螂のことを言うことはできなくて、自分の慣習には逆らえないことを知らされる。せめて、転んで掃かれませんように。

店頭の味覚も変わる時期だ、続々秋のものが並ぶ週末になりますように。

『ホトトギス同人句集』(1938年)

阪西敦子


【阪西敦子のバックナンバー】
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>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月      松藤夏山


【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。



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