ハイクノミカタ

気が変りやすくて蕪畠にゐる 飯島晴子【季語=蕪(冬)】


気が変りやすくて畠にゐる)

飯島晴子

 以前、内界と外界という話で掲句に言及したことがあるが、別の意味でもいかにも晴子らしい句である。それはすなわち、蕪畑の整然とした、そしてひんやりとした空間を基盤にして、「気が変りやすくて」という人間らしさが強調される点である。ただ混沌としているのではなく、一句の土台となるべき部分にしまりと密度があるからこそ、揺れ動くものに焦点があたる。畑というものは晴子俳句では主役というよりも、安定感のある一つの土台の役割となることが多かろう。内界と外界という話とも通じるかもしれないが。

小山玄紀


【執筆者プロフィール】
小山玄紀(こやま・げんき)
平成九年大阪生。櫂未知子・佐藤郁良に師事、「群青」同人。第六回星野立子新人賞、第六回俳句四季新人賞。句集に『ぼうぶら』。俳人協会会員


小山玄紀さんの句集『ぼうぶら』(2022年)はこちら↓】


【小山玄紀のバックナンバー】
>>〔35〕蓮根や泪を横にこぼしあひ 飯島晴子
>>〔34〕みどり児のゐて冬瀧の見える家 飯島晴子
>>〔33〕冬麗の谷人形を打ち合はせ 飯島晴子
>>〔32〕小鳥来る薄き机をひからせて 飯島晴子
>>〔31〕鹿の映れるまひるまのわが自転車旅行 飯島晴子
>>〔30〕鹿や鶏の切紙下げる思案かな 飯島晴子
>>〔29〕秋山に箸光らして人を追ふ 飯島晴子
>>〔28〕ここは敢て追はざる野菊皓かりき 飯島晴子
>>〔27〕なにはともあれの末枯眺めをり 飯島晴子
>>〔26〕肉声をこしらへてゐる秋の隕石 飯島晴子
>>〔25〕けふあすは誰も死なない真葛原 飯島晴子
>>〔24〕婿は見えたり見えなかつたり桔梗畑 飯島晴子
>>〔23〕白萩を押してゆく身のぬくさかな 飯島晴子
>>〔22〕露草を持つて銀行に入つてゆく 飯島晴子
>>〔21〕怒濤聞くかたはら秋の蠅叩   飯島晴子
>>〔20〕葛の花こぼれやすくて親匿され 飯島晴子
>>〔19〕瀧見人子を先だてて来りけり  飯島晴子
>>〔18〕未草ひらく跫音淡々と     飯島晴子
>>〔17〕本州の最北端の氷旗      飯島晴子
>>〔16〕細長き泉に着きぬ父と子と   飯島晴子
>>〔15〕この人のうしろおびただしき螢 飯島晴子
>>〔14〕軽き咳して夏葱の刻を過ぐ   飯島晴子
>>〔13〕螢とび疑ひぶかき親の箸    飯島晴子
>>〔12〕黒揚羽に当てられてゐる軀かな 飯島晴子
>>〔11〕叩頭すあやめあざやかなる方へ 飯島晴子


>>〔10〕家毀し瀧曼荼羅を下げておく 飯島晴子
>>〔9〕卯月野にうすき枕を並べけり  飯島晴子
>>〔8〕筍にくらき畳の敷かれあり   飯島晴子
>>〔7〕口中のくらきおもひの更衣   飯島晴子
>>〔6〕日光に底力つく桐の花     飯島晴子
>>〔5〕気を強く春の円座に坐つてゐる 飯島晴子
>>〔4〕遅れて着く花粉まみれの人喰沼 飯島晴子
>>〔3〕人とゆく野にうぐひすの貌強き 飯島晴子
>>〔2〕やつと大きい茶籠といつしよに眠らされ 飯島晴子
>>〔1〕幼子の手の腥き春の空   飯島晴子


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 風邪を引くいのちありしと思ふかな 後藤夜半【季語=風邪(冬)】
  2. 菜の花や部屋一室のラジオ局 相子智恵【季語=菜の花(春)】
  3. 怒濤聞くかたはら秋の蠅叩 飯島晴子【季語=秋(秋)】
  4. 屋根替の屋根に鎌刺し餉へ下りぬ 大熊光汰【季語=屋根替(春)】
  5. こほろぎや女の髪の闇あたたか 竹岡一郎【季語=蟋蟀(秋)】
  6. 七夕のあしたの町にちる色帋   麻田椎花【季語=七夕(秋)】
  7. 鉄瓶の音こそ佳けれ雪催 潮田幸司【季語=雪催(冬)】
  8. 未来より滝を吹き割る風来たる 夏石番矢【季語=滝(夏)】

おすすめ記事

  1. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第23回】木曾と宇佐美魚目
  2. 神保町に銀漢亭があったころ【第94回】檜山哲彦
  3. 土器に浸みゆく神酒や初詣 高浜年尾【季語=初詣(新年)】
  4. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2023年11月分】
  5. ぐじやぐじやのおじやなんどを朝餉とし何で残生が美しからう 齋藤史
  6. 水を飲む風鈴ふたつみつつ鳴る 今井肖子【季語=風鈴(夏)】
  7. 影ひとつくださいといふ雪女 恩田侑布子【季語=雪女(冬)】
  8. 【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2022年6月分】
  9. 中干しの稲に力を雲の峰 本宮哲郎【季語=雲の峰(夏)】
  10. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2022年3月分】

Pickup記事

  1. 趣味と写真と、ときどき俳句と【#10】食事の場面
  2. 抱く吾子も梅雨の重みといふべしや 飯田龍太【季語=梅雨(夏)】
  3. のこるたなごころ白桃一つ置く 小川双々子【季語=白桃(秋)】
  4. 【冬の季語】狐
  5. 天籟を猫と聞き居る夜半の冬 佐藤春夫【季語=夜半の冬(冬)】
  6. 【秋の季語】鶏頭/鶏頭花
  7. 【連載】「野崎海芋のたべる歳時記」 グジェール
  8. 【連載】加島正浩「震災俳句を読み直す」第2回
  9. 藁の栓してみちのくの濁酒 山口青邨【季語=濁酒(秋)】
  10. 【冬の季語】火事
PAGE TOP