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ここは敢て追はざる野菊皓かりき 飯島晴子【季語=野菊(秋)】


ここは敢て追はざる野菊皓かりき)

飯島晴子

 「追はざる」が野菊にかかるようでもあるしかからないようでもある。勿論どちらかの読みに絞る必要は全くなく、その両方が想起されるというのが一句の総合的な力である。しかし、それぞれについてもう少し詳しく考えてみたい。

 もしかかっているとすれば、つまり追う対象が野菊なのだとすれば、野菊は作者から遠ざかっているということになる。野菊がその細い茎を脚として風の中を逃げてゆく、繊細でかつぼやけたような白い映像が浮かぶ。一方で、もしかかっていない場合、すなわち何か別のものを追うことをやめたのであるならば、作者も野菊も止まっていることになる。静止した野菊の白さが見えてくるのである。どちらか一方を想起するか、あるいは両方思い浮かべたとしてもどれくらいの比重で思い浮かぶのか、どちらが先に思い浮かぶのかは読者次第であり、一句のもたらす印象は全く異なってくるだろう。

 私が掲句を初めて読んだ時の印象を完全に再現することは出来ないが、おそらくは、野菊が逃げてゆくような映像を先に思い浮かべ、そこからハッと、もしかすると追っているのは別物なのかもしれない、と立ち止まったのだと思う。そうすると、野菊が速度を急に緩めて止まり、それまでのぼやけた白が、定まった白となるわけである。

 「ここは敢て」からは意志の強さ、あるいは意志を強くしなければ追ってしまうその欲望を感じる。この上五の粘りが、野菊が止まる時のブレーキと響き合い、一句全体として動→静の流れが確かなものになるように思う。

小山玄紀


【執筆者プロフィール】
小山玄紀(こやま・げんき)
平成九年大阪生。櫂未知子・佐藤郁良に師事、「群青」同人。第六回星野立子新人賞、第六回俳句四季新人賞。句集に『ぼうぶら』。俳人協会会員


小山玄紀さんの句集『ぼうぶら』(2022年)はこちら↓】


【小山玄紀のバックナンバー】
>>〔27〕なにはともあれの末枯眺めをり 飯島晴子
>>〔26〕肉声をこしらへてゐる秋の隕石 飯島晴子
>>〔25〕けふあすは誰も死なない真葛原 飯島晴子
>>〔24〕婿は見えたり見えなかつたり桔梗畑 飯島晴子
>>〔23〕白萩を押してゆく身のぬくさかな 飯島晴子
>>〔22〕露草を持つて銀行に入つてゆく 飯島晴子
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>>〔6〕日光に底力つく桐の花     飯島晴子
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>>〔3〕人とゆく野にうぐひすの貌強き 飯島晴子
>>〔2〕やつと大きい茶籠といつしよに眠らされ 飯島晴子
>>〔1〕幼子の手の腥き春の空   飯島晴子


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