ハイクノミカタ

水仙や古鏡の如く花をかかぐ 松本たかし【季語=水仙(冬)】


水仙や古鏡の如く花をかかぐ

松本たかし

「古鏡」とは古代の金属製の鏡。青銅や白銅で鋳造したものの表面を磨き上げて光の反射で映るようにしたものだ。

古代の人がそこに顔を映して眺めていたものだと思うと、発掘されて展示されている古鏡を見るたびに古に思いを馳せ、言い知れぬ心地になる。

「古鏡の如く」

こんな比喩をしてみたいという憧れの句。

水仙の花の形と纏っている静謐な空気が「古鏡」を呼び寄せたのであろうが、その比喩はありきたりでなく、また離れすぎてもいない。

互いの魅力を引き出すような比喩だ。

それに「花をかかぐ」という措辞が、その比喩を映像として引き立てている。

響き合う水仙と古鏡。

水仙はただの水仙ではなくなり、古鏡には命が吹き込まれる。

日下野由季


【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。



【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 埋火もきゆやなみだの烹る音 芭蕉【季語=埋火(冬)】
  2. 春立つと拭ふ地球儀みづいろに 山口青邨【季語=春立つ(春)】
  3. 鉛筆一本田川に流れ春休み 森澄雄【季語=春休み(春)】
  4. 毒舌は健在バレンタインデー 古賀まり子【季語=バレンタインデー(…
  5. 片手明るし手袋をまた失くし 相子智恵【季語=手袋(冬)】
  6. 降る雪や玉のごとくにランプ拭く 飯田蛇笏【季語=雪降る(冬)】
  7. ひそひそと四万六千日の猫 菊田一平【季語=四万六千日(夏)】
  8. 一陣の温き風あり返り花 小松月尚【季語=返り花(冬)】

おすすめ記事

  1. 秋櫻子の足あと【最終回】谷岡健彦
  2. 【冬の季語】年惜む
  3. 【卵の俳句】
  4. 白萩を押してゆく身のぬくさかな 飯島晴子【季語=白萩(秋)】
  5. 東京に居るとの噂冴え返る 佐藤漾人【季語=冴え返る(春)】
  6. いつせいに柱の燃ゆる都かな 三橋敏雄
  7. 【冬の季語】鬼やらい
  8. 【第1回】ポルトガル――北の村祭と人々/藤原暢子
  9. 【冬の季語】襟巻
  10. あたゝかな雨が降るなり枯葎 正岡子規【季語=あたたか(春)?】

Pickup記事

  1. 秋灯の街忘るまじ忘るらむ 髙柳克弘【季語=秋灯(秋)】
  2. 天高し風のかたちに牛の尿 鈴木牛後【季語=天高し(秋)】
  3. 幾千代も散るは美し明日は三越 攝津幸彦
  4. マフラーの長きが散らす宇宙塵 佐怒賀正美【季語=マフラー(冬)】
  5. シャボン玉吹く何様のような顔 斉田仁【季語=石鹸玉(春)】
  6. 手を敷いて我も腰掛く十三夜 中村若沙【季語=十三夜(秋)】
  7. 生きのよき魚つめたし花蘇芳 津川絵理子【季語=花蘇芳(春)】
  8. 鶯や米原の町濡れやすく 加藤喜代子【季語=鶯(春)】
  9. 【春の季語】日永
  10. なきがらや秋風かよふ鼻の穴 飯田蛇笏【季語=秋風(秋)】
PAGE TOP