ハイクノミカタ

あたゝかき十一月もすみにけり 中村草田男【季語=十一月(冬)】


あたゝかき十一月もすみにけり

中村草田男

今週に入って少しづつ涼しくなってきた。それでも、日中は長袖一枚でも歩ける気温なので、例年と比べるとまだまだ暖かい。関東では今週末に一旦、気温が下がるが、また週明けに気温が20℃近くまで戻るので、まだもう少し過ごしやすい日々が続きそうだ。

あたゝかき十一月もすみにけり 中村草田男

実際にはまだ暖かい11月は済んでいないが、これから寒くなると草田男のように感じるのだろう。「十一月も」の「も」の解釈は自由だ。例えば、寒い11月も暖かい11月も済んでしまったという解釈でも良い。「すみ」は「済み、澄み」でも良い。「セクト・ポクリット」では、2020年11月2022年11月にこの句が取り上げられたので、温暖化の影響(?)でこれからも暖かい11月がくるたびに、この句が取り上げられるのだろう。

そんな11月に、近所の大学では、銀杏の匂うなか大学祭の準備をしていた。地元名物の「すた丼」早食い競争を大学祭でやるらしく、その予行演習をしていた。優勝者には10杯分の無料すた丼チケットをもらえるらしい。いかにも大学生らしい企画である。「よーい、すた丼!」の声が初々しく響いた。

銀杏散るまつたゞ中に法科あり 山口青邨

大学の裏手にある和菓子屋では、銀杏餅を販売していた。茶の湯裏千家の露地には千宗旦手植え公孫樹があり、毎年、11月19日の宗旦忌にはこの実を使った銀杏餅が振る舞われる。銀杏の苦さと漉し餡の甘さが調和して美味い。

11月5日、第5回『稲畑汀子俳句集成』読書会が開催された。今回のテーマは「山」、ホストは「山茶花」主催の三村純也、ゲストは超結社の若手俳人5名が参加した。この読書会にて一番人気のあった句が、《一山の花の散り込む谷と聞く》である。次回は、12月3日(日)14時から、テーマは「庭」、ホストは池田澄子、そしてゲストに「セクト・ポクリット」管理人の堀切克洋が登場する。お楽しみに。では、良い週末を!

塚本武州



【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。国立市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。


【塚本武州のバックナンバー】

>>〔41〕向日葵をつよく彩る色は黒 京極杞陽
>>〔40〕つれづれのわれに蟇這ふ小庭かな 杉田久女
>>〔39〕べつたら市糀のつきし釣貰ふ 小林勇二
>>〔38〕新蕎麦のそば湯を棒のごとく注ぎ 鷹羽狩行
>>〔37〕コスモスや泣きたくなつたので笑ふ 吉田林檎
>>〔36〕月かげにみな美しき庭のもの 稲畑汀子
>>〔35〕ラグビーのゴールは青き空にあり 長谷川櫂
>>〔34〕コスモスを愛づゆとりとてなきゴルフ 大橋 晄
>>〔33〕秋めくや焼鳥を食ふひとの恋  石田波郷
>>〔32〕めちやくちやなどぜうの浮沈台風くる 秋元不死男
>>〔31〕よし切りや水車はゆるく廻りをり 高浜虚子
>>〔30〕おもかげや姨ひとりなく月の友 松尾芭蕉
>>〔29〕生れたる蝉にみどりの橡世界 田畑美穂女
>>〔28〕鬼灯市雷門で落合うて    田中松陽子
>>〔27〕買はでもの朝顔市も欠かされず 篠塚しげる
>>〔26〕少し派手いやこのくらゐ初浴衣 草間時彦
>>〔25〕赤ばかり咲いて淋しき牡丹かな 稲畑汀子
>>〔24〕紫陽花のパリーに咲けば巴里の色 星野椿
>>〔23〕うつとりと人見る奈良の鹿子哉 正岡子規
>>〔22〕小燕のさヾめき誰も聞き流し  中村汀女
>>〔21〕夏場所や新弟子ひとりハワイより 大島民郎
>>〔20〕白魚の命の透けて水動く    稲畑汀子
>>〔19〕滝落したり落したり落したり  清崎敏郎
>>〔18〕あれは伊予こちらは備後春の風 武田物外
>>〔17〕風光りすなはちもののみな光る 鷹羽狩行
>>〔16〕晴れ曇りおほよそ曇りつつじ燃ゆ 篠田悌二郎
>>〔15〕山又山山桜又山桜      阿波野青畝
>>〔14〕春風や闘志いだきて丘に立つ  高浜虚子
>>〔13〕行く雁を見てゐる肩に手を置かれ 市村不先
>>〔12〕梅咲きぬ温泉は爪の伸び易き  梶井基次郎
>>〔11〕こぼれたる波止の鮊子掃き捨てる 桑田青虎
>>〔10〕とれたてのアスパラガスのやうな彼 山田弘子
>>〔9〕雛節句一夜過ぎ早や二夜過ぎ  星野立子
>>〔8〕百代の過客しんがりに猫の子も  加藤楸邨
>>〔7〕春光のステンドグラス天使舞ふ   森田峠
>>〔6〕謝肉祭の仮面の奥にひすいの眼  石原八束
>>〔5〕バー温し年豆妻が撒きをらむ    河野閑子
>>〔4〕初場所の力士顚倒し顚倒し     三橋敏雄
>>〔3〕わが知れる阿鼻叫喚や震災忌    京極杞陽
>>〔2〕福笹につけてもらひし何やかや   高濱年尾
>>〔1〕一月や去年の日記なほ机辺     高濱虚子

【初代金曜日・阪西敦子のバックナンバー】

>>〔118〕【最終回】なぐさめてくるゝあたゝかなりし冬    稲畑汀子
>>〔117〕クリスマスイヴの始る厨房よ                千原草之
>>〔116〕傾けば傾くまゝに進む橇                         岡田耿陽
>>〔115〕風邪ごもりかくし置きたる写真見る     安田蚊杖
>>〔114〕舟やれば鴨の羽音の縦横に                    川田十雨
>>〔113〕つはの葉につもりし雪の裂けてあり     加賀谷凡秋
>>〔112〕毛帽子をかなぐりすててのゝしれる     三木朱城
>>〔111〕牡蠣舟やレストーランの灯をかぶり      大岡龍男
>>〔110〕梁折れて頬を打つあり鶉追ふ                三溝沙美
>>〔109〕桔梗やさわや/\と草の雨                楠目橙黄子
>>〔108〕鳥屋の窓四方に展けし花すゝき         丹治蕪人
>>〔107〕秋めくやあゝした雲の出かゝれば          池内たけし
>>〔106〕コスモスのゆれかはしゐて相うたず      鈴鹿野風呂
>>〔105〕淋しさに鹿も起ちたる馬酔木かな      山本梅史
>>〔104〕蜩や久しぶりなる井の頭                     柏崎夢香
>>〔103〕おやすみ
>>〔102〕月代は月となり灯は窓となる         竹下しづの女
>>〔101〕おやすみ
>>〔100〕おやすみ
>>〔99〕おやすみ
>>〔97〕七夕のあしたの町にちる色帋               麻田椎花
>>〔96〕大阪の屋根に入る日や金魚玉                 大橋櫻坡子
>>〔95〕盥にあり夜振のえもの尾をまげて          柏崎夢香
>>〔94〕行く涼し谷の向うの人も行く                  原石鼎
>>〔93〕山羊群れて夕立あとの水ほとり            江川三昧
>>〔92〕思ひ沈む父や端居のいつまでも             石島雉子郎
>>〔91〕麦藁を束ねる足をあてにけり                    奈良鹿郎
>>〔90〕はしりすぎとまりすぎたる蜥蜴かな        京極杞陽
>>〔89〕船室の梅雨の鏡にうつし見る     日原方舟
>>〔88〕さくらんぼ洗ひにゆきし灯がともり  千原草之
>>〔87〕おやすみ
>>〔86〕まどごしに與へ去りたる螢かな   久保より江
>>〔85〕日蝕の鴉落ちこむ新樹かな     石田雨圃子
>>〔84〕白牡丹四五日そして雨どつと    高田風人子
>>〔83〕春暁のカーテンひくと人たてり   久保ゐの吉
>>〔82〕かゝる世もありと暮しぬ春炬燵   松尾いはほ
>>〔81〕纐纈の大座布団や春の宵      真下喜太郎

>>〔80〕先生はいつもはるかや虚子忌来る  深見けん二
>>〔79〕夜着いて花の噂やさくら餅      關 圭草
>>〔78〕花の幹に押しつけて居る喧嘩かな   田村木國
>>〔77〕お障子の人見硝子や涅槃寺      河野静雲
>>〔76〕東京に居るとの噂冴え返る      佐藤漾人
>>〔75〕落椿とはとつぜんに華やげる     稲畑汀子
>>〔74〕見てゐたる春のともしびゆらぎけり 池内たけし
>>〔73〕諸事情により、おやすみ
>>〔72〕春雪の一日が長し夜に逢ふ      山田弘子
>>〔71〕早春や松のぼりゆくよその猫    藤田春梢女
>>〔70〕よき椅子にもたれて話す冬籠    池内たけし
>>〔69〕犬去れば次の犬来る鳥総松     大橋越央子
>>〔68〕左義長のまた一ところ始まりぬ      三木
>>〔67〕絵杉戸を転び止まりの手鞠かな    山崎楽堂
>>〔66〕年を以て巨人としたり歩み去る     高浜虚子
>>〔65〕クリスマス近づく部屋や日の溢れ  深見けん二
>>〔64〕突として西洋にゆく暖炉かな     片岡奈王
>>〔63〕茎石に煤をもれ来る霰かな      山本村家
>>〔62〕山茶花の日々の落花を霜に掃く    瀧本水鳴
>>〔61〕替へてゐる畳の上の冬木影      浅野白山
>>〔60〕木の葉髪あはれゲーリークーパーも  京極杞陽

>>〔59〕一陣の温き風あり返り花       小松月尚
>>〔58〕くゝ〳〵とつぐ古伊部の新酒かな   皿井旭川
>>〔57〕おやすみ
>>〔56〕鵙の贄太古のごとく夕来ぬ      清原枴童
>>〔55〕車椅子はもとより淋し十三夜     成瀬正俊
>>〔54〕虹の空たちまち雪となりにけり   山本駄々子
>>〔53〕潮の香や野分のあとの浜畠     齋藤俳小星
>>〔52〕子規逝くや十七日の月明に      高浜虚子
>>〔51〕えりんぎはえりんぎ松茸は松茸   後藤比奈夫
>>〔50〕横ざまに高き空より菊の虻      歌原蒼苔
>>〔49〕秋の風互に人を怖れけり       永田青嵐
>>〔48〕蟷螂の怒りまろびて掃かれけり    田中王城
>>〔47〕手花火を左に移しさしまねく     成瀬正俊
>>〔46〕置替へて大朝顔の濃紫        川島奇北
>>〔45〕金魚すくふ腕にゆらめく水明り    千原草之
>>〔44〕愉快な彼巡査となつて帰省せり    千原草之
>>〔43〕炎天を山梨にいま来てをりて     千原草之
>>〔42〕ール買ふ紙幣(さつ)をにぎりて人かぞへ  京極杞陽
>>〔41〕フラミンゴ同士暑がつてはをらず  後藤比奈夫
>>〔40〕夕焼や答へぬベルを押して立つ   久保ゐの吉

>>〔39〕夾竹桃くらくなるまで語りけり   赤星水竹居
>>〔38〕父の日の父に甘えに来たらしき   後藤比奈夫
>>〔37〕麺麭摂るや夏めく卓の花蔬菜     飯田蛇笏
>>〔36〕あとからの蝶美しや花葵       岩木躑躅
>>〔35〕麦打の埃の中の花葵        本田あふひ
>>〔34〕麦秋や光なき海平らけく       上村占魚
>>〔33〕酒よろしさやゑんどうの味も好し   上村占魚
>>〔32〕除草機を押して出会うてまた別れ   越野孤舟
>>〔31〕大いなる春を惜しみつ家に在り    星野立子
>>〔30〕燈台に銘あり読みて春惜しむ     伊藤柏翠
>>〔29〕世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし
>>〔28〕ネックレスかすかに金や花を仰ぐ  今井千鶴子
>>〔27〕芽柳の傘擦る音の一寸の間      藤松遊子
>>〔26〕日の遊び風の遊べる花の中     後藤比奈夫
>>〔25〕見るうちに開き加はり初桜     深見けん二
>>〔24〕三月の又うつくしきカレンダー    下田実花
>>〔23〕雛納めせし日人形持ち歩く      千原草之
>>〔22〕九頭龍へ窓開け雛の塵払ふ      森田愛子
>>〔21〕梅の径用ありげなる人も行く    今井つる女

>>〔20〕来よ来よと梅の月ヶ瀬より電話   田畑美穂女
>>〔19〕梅ほつほつ人ごゑ遠きところより  深川正一郎
>>〔18〕藷たべてゐる子に何が好きかと問ふ  京極杞陽
>>〔17〕酒庫口のはき替え草履寒造      西山泊雲
>>〔16〕ラグビーのジヤケツの色の敵味方   福井圭児
>>〔15〕酒醸す色とは白や米その他     中井余花朗
>>〔14〕去年今年貫く棒の如きもの      高浜虚子
>>〔13〕この出遭ひこそクリスマスプレゼント 稲畑汀子
>>〔12〕蔓の先出てゐてまろし雪むぐら    野村泊月
>>〔11〕おでん屋の酒のよしあし言ひたもな  山口誓子
>>〔10〕ストーブに判をもらひに来て待てる 粟津松彩子
>>〔9〕コーヒーに誘ふ人あり銀杏散る    岩垣子鹿
>>〔8〕浅草をはづれはづれず酉の市   松岡ひでたか
>>〔7〕いつまでも狐の檻に襟を立て     小泉洋一
>>〔6〕澁柿を食べさせられし口許に     山内山彦
>>〔5〕手を敷いて我も腰掛く十三夜     中村若沙
>>〔4〕火達磨となれる秋刀魚を裏返す    柴原保佳
>>〔3〕行秋や音たてて雨見えて雨      成瀬正俊
>>〔2〕クッキーと林檎が好きでデザイナー  千原草之
>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月      松藤夏山




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