ハイクノミカタ

コスモスや泣きたくなつたので笑ふ 吉田林檎【季語=コスモス(秋)】


コスモスや泣きたくなつたので笑ふ

吉田林檎

 山口百恵の曲「秋桜(コスモス)」は嫁ぐ娘が母を想う歌である。大まかなストーリーはこんな感じである。母は縁側でアルバムを開き、娘の幼い日々を思い出す。そして娘にこれから嫁ぎ先で苦労するけど最後は笑い話になるよと笑って励ます。だけど、荷造りを手伝っていると突然、母は涙をこぼす。「元気で」と何度も何度も繰り返して。

 もともとこの曲のタイトルは「小春日和」だったらしいが、プロデューサーの提案により「秋桜」に変わった。また、作詞作曲のさだまさしは「秋桜(あきざくら)」とするつもりであったらしいが、最終的に、秋桜(コスモス)というそれまでになかった読み方がこの曲のヒットにより広まるようになった。確かに、コスモスの季感に何か寂しいものを含んでいるようである。それは、夏が終わり、中秋に咲く花であり、ひょろひょろとした姿が野辺や河原に秋風で揺れている様もなぜか物悲しい。

コスモスや泣きたくなつたので笑ふ 吉田林檎『スカラ座』

 掲句にある「泣きたくなつた」理由はわからないが、コスモス(秋・9月)の季感が効いている。また、「泣きたくなつたので笑ふ」という作者の逆説的な強さを感じる。普通、泣きたくなったら泣くのだが、作者は笑う。それも泣くと笑うに因果関係がある。泣きたくなったから笑うのである。私なりに掲句を解釈すると、コスモスが咲いていた、なぜかわからないが泣きたくなったので、(泣いていても先に進めないから)笑おう、ということだろうか。

 私ごとで恐縮だが、9月18日、母が急逝した。母は、山口百恵の近所に生涯住み続け、さだまさしの曲をこよなく愛し、コスモスの咲く時期に逝った。今頃、どこかで「秋桜(コスモス)」を歌っているのであろうか。うん、泣きたくなったので笑おう。

塚本武州



【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。神戸市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。



【塚本武州のバックナンバー】
>>〔36〕月かげにみな美しき庭のもの 稲畑汀子
>>〔35〕ラグビーのゴールは青き空にあり 長谷川櫂
>>〔34〕コスモスを愛づゆとりとてなきゴルフ 大橋 晄
>>〔33〕秋めくや焼鳥を食ふひとの恋  石田波郷
>>〔32〕めちやくちやなどぜうの浮沈台風くる 秋元不死男
>>〔31〕よし切りや水車はゆるく廻りをり 高浜虚子
>>〔30〕おもかげや姨ひとりなく月の友 松尾芭蕉
>>〔29〕生れたる蝉にみどりの橡世界 田畑美穂女
>>〔28〕鬼灯市雷門で落合うて    田中松陽子
>>〔27〕買はでもの朝顔市も欠かされず 篠塚しげる
>>〔26〕少し派手いやこのくらゐ初浴衣 草間時彦
>>〔25〕赤ばかり咲いて淋しき牡丹かな 稲畑汀子
>>〔24〕紫陽花のパリーに咲けば巴里の色 星野椿
>>〔23〕うつとりと人見る奈良の鹿子哉 正岡子規
>>〔22〕小燕のさヾめき誰も聞き流し  中村汀女
>>〔21〕夏場所や新弟子ひとりハワイより 大島民郎
>>〔20〕白魚の命の透けて水動く    稲畑汀子
>>〔19〕滝落したり落したり落したり  清崎敏郎
>>〔18〕あれは伊予こちらは備後春の風 武田物外
>>〔17〕風光りすなはちもののみな光る 鷹羽狩行
>>〔16〕晴れ曇りおほよそ曇りつつじ燃ゆ 篠田悌二郎
>>〔15〕山又山山桜又山桜      阿波野青畝
>>〔14〕春風や闘志いだきて丘に立つ  高浜虚子
>>〔13〕行く雁を見てゐる肩に手を置かれ 市村不先
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>>〔10〕とれたてのアスパラガスのやうな彼 山田弘子
>>〔9〕雛節句一夜過ぎ早や二夜過ぎ  星野立子
>>〔8〕百代の過客しんがりに猫の子も  加藤楸邨
>>〔7〕春光のステンドグラス天使舞ふ   森田峠
>>〔6〕謝肉祭の仮面の奥にひすいの眼  石原八束
>>〔5〕バー温し年豆妻が撒きをらむ    河野閑子
>>〔4〕初場所の力士顚倒し顚倒し     三橋敏雄
>>〔3〕わが知れる阿鼻叫喚や震災忌    京極杞陽
>>〔2〕福笹につけてもらひし何やかや   高濱年尾
>>〔1〕一月や去年の日記なほ机辺     高濱虚子

【初代金曜日・阪西敦子のバックナンバー】

>>〔118〕【最終回】なぐさめてくるゝあたゝかなりし冬    稲畑汀子
>>〔117〕クリスマスイヴの始る厨房よ                千原草之
>>〔116〕傾けば傾くまゝに進む橇                         岡田耿陽
>>〔115〕風邪ごもりかくし置きたる写真見る     安田蚊杖
>>〔114〕舟やれば鴨の羽音の縦横に                    川田十雨
>>〔113〕つはの葉につもりし雪の裂けてあり     加賀谷凡秋
>>〔112〕毛帽子をかなぐりすててのゝしれる     三木朱城
>>〔111〕牡蠣舟やレストーランの灯をかぶり      大岡龍男
>>〔110〕梁折れて頬を打つあり鶉追ふ                三溝沙美
>>〔109〕桔梗やさわや/\と草の雨                楠目橙黄子
>>〔108〕鳥屋の窓四方に展けし花すゝき         丹治蕪人
>>〔107〕秋めくやあゝした雲の出かゝれば          池内たけし
>>〔106〕コスモスのゆれかはしゐて相うたず      鈴鹿野風呂
>>〔105〕淋しさに鹿も起ちたる馬酔木かな      山本梅史
>>〔104〕蜩や久しぶりなる井の頭                     柏崎夢香
>>〔103〕おやすみ
>>〔102〕月代は月となり灯は窓となる         竹下しづの女
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>>〔66〕年を以て巨人としたり歩み去る     高浜虚子
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>>〔61〕替へてゐる畳の上の冬木影      浅野白山
>>〔60〕木の葉髪あはれゲーリークーパーも  京極杞陽

>>〔59〕一陣の温き風あり返り花       小松月尚
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>>〔57〕おやすみ
>>〔56〕鵙の贄太古のごとく夕来ぬ      清原枴童
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>>〔54〕虹の空たちまち雪となりにけり   山本駄々子
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>>〔51〕えりんぎはえりんぎ松茸は松茸   後藤比奈夫
>>〔50〕横ざまに高き空より菊の虻      歌原蒼苔
>>〔49〕秋の風互に人を怖れけり       永田青嵐
>>〔48〕蟷螂の怒りまろびて掃かれけり    田中王城
>>〔47〕手花火を左に移しさしまねく     成瀬正俊
>>〔46〕置替へて大朝顔の濃紫        川島奇北
>>〔45〕金魚すくふ腕にゆらめく水明り    千原草之
>>〔44〕愉快な彼巡査となつて帰省せり    千原草之
>>〔43〕炎天を山梨にいま来てをりて     千原草之
>>〔42〕ール買ふ紙幣(さつ)をにぎりて人かぞへ  京極杞陽
>>〔41〕フラミンゴ同士暑がつてはをらず  後藤比奈夫
>>〔40〕夕焼や答へぬベルを押して立つ   久保ゐの吉

>>〔39〕夾竹桃くらくなるまで語りけり   赤星水竹居
>>〔38〕父の日の父に甘えに来たらしき   後藤比奈夫
>>〔37〕麺麭摂るや夏めく卓の花蔬菜     飯田蛇笏
>>〔36〕あとからの蝶美しや花葵       岩木躑躅
>>〔35〕麦打の埃の中の花葵        本田あふひ
>>〔34〕麦秋や光なき海平らけく       上村占魚
>>〔33〕酒よろしさやゑんどうの味も好し   上村占魚
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>>〔31〕大いなる春を惜しみつ家に在り    星野立子
>>〔30〕燈台に銘あり読みて春惜しむ     伊藤柏翠
>>〔29〕世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし
>>〔28〕ネックレスかすかに金や花を仰ぐ  今井千鶴子
>>〔27〕芽柳の傘擦る音の一寸の間      藤松遊子
>>〔26〕日の遊び風の遊べる花の中     後藤比奈夫
>>〔25〕見るうちに開き加はり初桜     深見けん二
>>〔24〕三月の又うつくしきカレンダー    下田実花
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>>〔20〕来よ来よと梅の月ヶ瀬より電話   田畑美穂女
>>〔19〕梅ほつほつ人ごゑ遠きところより  深川正一郎
>>〔18〕藷たべてゐる子に何が好きかと問ふ  京極杞陽
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>>〔16〕ラグビーのジヤケツの色の敵味方   福井圭児
>>〔15〕酒醸す色とは白や米その他     中井余花朗
>>〔14〕去年今年貫く棒の如きもの      高浜虚子
>>〔13〕この出遭ひこそクリスマスプレゼント 稲畑汀子
>>〔12〕蔓の先出てゐてまろし雪むぐら    野村泊月
>>〔11〕おでん屋の酒のよしあし言ひたもな  山口誓子
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>>〔8〕浅草をはづれはづれず酉の市   松岡ひでたか
>>〔7〕いつまでも狐の檻に襟を立て     小泉洋一
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>>〔4〕火達磨となれる秋刀魚を裏返す    柴原保佳
>>〔3〕行秋や音たてて雨見えて雨      成瀬正俊
>>〔2〕クッキーと林檎が好きでデザイナー  千原草之
>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月      松藤夏山




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