睡蓮のまどろみアダムとイブになる 瀬戸優理子【季語=睡蓮(夏)】


睡蓮のまどろみアダムとイブになる
瀬戸優理子
『告白』

 作者は「さっぽろ俳句倶楽部」を主宰されている瀬戸優理子さん。令和7年には、俳句同人誌「Ali」を創刊。北海道俳人として知られているが実は、東京都杉並区の生まれ。早稲田大学卒業後は出版者に8年間勤務していたという。俳句に出会ったのは、25歳の頃。五十嵐研三代表の「橋」に入会。ただ、その頃は仕事と恋に忙しかったとか。30歳の時、結婚を機に仕事を辞め、北海道に転居。知人も少なく、慣れない土地での子育てのなかで俳句が拠り所になっていったとのこと。「橋」が終刊になったため、岸本マチ子代表の「WA」に入会。同時期には、北川邦陽代表の「卵の会」にも入会している。その後、北海道俳人を集めた五十嵐秀彦代表の「itak」に入会。現在は、「ペガサス」「豈」「蘖通信」所属。平成26年、第十四回中北海道現代俳句賞受賞、平成27年、第33回現代俳句新人賞受賞。著書に詩句集『泣くなら、ここで』(たけまゆり名義)、句集『告白』がある。
 優理子さんは数年前の新年に「ひめ始句会」を開催したことがあった。テーマはエロスである。私がその句会を知ったのは開催後のことで、参加できなかったことが悔やまれた。その後私も恋の句会を開催するようになり、エロスをテーマとした時があった。SNSにて参加者を募集したところ、なんと優理子さんから応援メッセージを頂いた。
 その優理子さんと来たる10月24日(土)に荒川区のゆいの森にて第51回現代俳句講座のシンポジウムでご一緒することになった。テーマは、「俳句で語る『愛』その表現法」~日野草城「ミヤコホテル」の表現法をめぐって~。パネラーは、瀬戸優理子さん、高村七子さん、篠崎央子、司会は飯田冬眞さん。ちなみにシンポジウムは第二部。第一部は、『日野草城伝』の著者伊丹啓子さんの講演で「日野草城について」である。


 そんなこんなで、優理子さんの句集『告白』(2017年出版)を紹介したい。句集は、製作順ではないけれども、20代の頃の作品をまぜつつ人生ヒストリーが分かるように編まれているとのこと。
 句集前半で目を惹くのが瑞々しい恋の句である。恋の句は実際に恋をして詠む場合の他に、回想や妄想、ドラマなどを見て思いつく場合もある。優理子さんの恋の句は、どれも臨場感があり現実的である。

   手花火やキッスのように分け合う火
   泣きそうになるたび開ける冷蔵庫
   初恋の続き真夏の一本道
 触れ合っているのは手花火なのに、まるでキッスをするかのように胸が高鳴る。恋をした寂しさを紛らわすために開ける冷蔵庫。女性の一人暮らしの空間が見えてくる。何歳になっても恋する心は初恋の時と同じ。真夏の一本道は人それぞれ描く情景は異なるけれども初恋から続く道として共感することができる。

   さよならの形にへこむ夏帽子
   銀漢やあっけらかんと失恋す
   水鳥や抱きしめ方がわからない
   あなたの名ばらばらにして春の雪
 出版社時代の恋にもやがて終わりがやってきた。初夏の頃には夢と希望で膨らんでいた帽子は、魂が抜けたようにへこんでしまう。銀漢を隔てたような遠距離恋愛だったとのことだが、終わりはあっけなかった。水鳥は自分自身なのか。抱きしめ方が分からないのは、愛し方が分からないということである。失恋による傷がつづく。相手を忘れるために名前をばらばらにして春の雪に散らす。手紙を破くような感覚であろう。

   夫追ってどきんどきんと春の水
   生ゴミに秋刀魚の頭晩婚なり
   月涼し米研いだ手で夫抱く
   夏痩せし男の肩幅を愛す
   蜜柑買いすぎ愛しさという病
   腸を抜いた秋刀魚や十年愛

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