明日には今日は昨日になる 泳ぐ 海城高校A  下谷陽太【季語=泳ぐ(夏)】


明日には今日は昨日になる 泳ぐ
(海城高校A 下谷陽太(第29回俳句甲子園 最優秀句))

今年も松山で俳句甲子園が開催された。優勝したのは海城高校Aチーム(同校からは2チームが全国大会に出場しているためA,Bの別がある)。ほぼ全ての試合をストレートで勝ち進んできた横浜翠嵐高校を逆にスイープするという圧倒的な勝負強さで学校として初めての全国優勝を果たした。海城高校のみんな、おめでとう。

しかし例年のことだが今年も作品・ディベートの両面でレベルの高い大会で、野次馬たる我々までも熱く燃え上がらせてくれるような素晴らしい2日間であった。審査員や実行委員会、そしてボランティアのみなさまには感謝してもしきれないほどである。

掲句は最優秀句に選ばれた海城高校A・下谷さんの作品。作品点としては最高の10点を4人の審査委員長から獲得し、この句での勝利によって優勝を決めたというプレシャスな句だ。一見すると当然のことを述べているだけのようにも読めるが、一字空けののちに配された「泳ぐ」という動詞が書き手の諦念や覚悟を噛み締めるような遅効性の詩情をもたらすことで単なるアフォリズムとなることを避けている。疑いようのない佳句だ。

一方で、顰蹙を承知で申し上げれば、俳句甲子園が(≒審査委員長たちが)今回の最優秀句としてこの句を選出したことについてはまだまだ議論の余地があると思っている。論点はいくつかあるが、あえて挙げるとすれば「本当に歴代の最優秀句に匹敵する突出した魅力や独自性があるか?」「視覚的な新しさを優先してあまりにも御誂え向きな句を選んでいないか?」といった点だろうか。

たとえば前者について言うと、観戦中に僕が掲句と横浜翠嵐高校の提出句〈起りつつ消えては波や明易し〉を並べて見た際の印象は「作品点としては7-7か8-8で拮抗、あとはディベートの勝負になるだろう」といったものであった。さらに翠嵐のディベートが秀逸で、「一字空けのインパクトはあるが、フレーズが類想的ではないか」といった指摘はかなりクリティカルに効いていたのではないかと思う。さらに「泳ぐ」という季語で言えば翠嵐の選手が例示した開成高校の〈生まれし日の記憶どこにもなく泳ぐ 永山智・第17回〉をはじめとして〈愛されずして沖遠く泳ぐなり 藤田湘子〉〈船焼き捨てし/船長は//泳ぐかな 高柳重信〉といった名句が多数存在するため、それらとの比較も当然必要になってくるだろう。特に重信の句は表記上の工夫という重要な点が共通しているわけだから、ぜひディベートでも話を聞いてみたかったところである。ただしこれらはあくまでも僕の今日時点での感想でしかないから、ぜひこれから様々な方の意見や鑑賞を見せてほしいと強く思う。

後者についてはややメタ的というか意地悪な視点で恐縮なのだが、この句はそもそもかなり最優秀句「っぽい」と思う。掲句は一字空けこそ目新しいが、今日や明日といった射程の広い単語と抽象的なフレーズといった部分は過去の最優秀句のフォーマットにかなり則っていると言える。そしてこの一字空けの特異性はむしろ今回の選定においては(句の評価ではなくメタ的な意味で)プラスに働いており、つまりこの句は「我々は現代的な俳句も理解していますよ、これからはこういう句も取りますよ」というメッセージを伝達するための鏑矢として利用されているのではないかと邪推してしまうわけである。何度でも繰り返すが、掲句は間違いなく良い句である。ただしいち観客としての欲を言えば〈豚が鳴く卒業の日の砂利踏めば 池内嵩人・第19回〉〈中腰の世界に玉葱の匂ふ 重田渉・第22回〉といった句をあの壇上で見たときの興奮や「これを最優秀にするのか!」という感嘆をまた味わいたいと思ってしまうのだ。自分で書いていて、つくづく嫌な大人だと思う。

P.S. この原稿は決勝戦の興奮冷めやらぬ松山のホテルで試合直後に書いているのだが、その興奮には俳句甲子園の熱気だけでなく、これから訪ねる松山の酒場への期待が多分に含まれている。松山はかなりの酒場大国で、大街道の周辺には昔ながらの居酒屋だけでなくネオ大衆酒場的なスタンドやDD4Dに代表されるクラフトビアのタップルーム、そしてバーやスナックに至るまでたくさんの店が立ち並ぶ。

何年も同じ時期に訪れていると行き先もある程度固定化してきてしまうものだが、せっかくの酒都なのだからこれからは初見の店も開拓してみたい。昨日初めて訪れた「民酒党」は活気あふれる安価な酒場。入店すると森脇健児似の店主が「椅子がガタガタの席しかないけどいいっすか!」と笑顔で出迎えてくれるものだから、負けじと「どうせガタガタになるので、大丈夫です」とグッド・コミュニケーションを展開させていただいた。着席すると本当にガタガタで、椅子というよりは床がエアーズロックくらい盛り上がっていたため大変スリリングな飲酒を楽しめた。幸いにも今日は語るべき肴に恵まれているわけだから、これから長く短い夜に繰り出してみようと思う。

細村星一郎


【執筆者プロフィール】
細村星一郎(ほそむら・せいいちろう)
2000年生。第16回鬼貫青春俳句大賞。Webサイト「巨大」管理人。



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