ゴミを片すみに暑い今日から無職 平田修【季語=暑い(夏)】


ゴミを片すみに暑い今日から無職
平田修
(「双弓句会」提出句、1986〜87年)

掲句は平田修の句をまとめたファイルの最終盤、「未発表草稿(大石雄介抄出)」と題されたエリアの句。1986〜7年にかけて行われた「双弓句会」という句会(かっこいい)に提出された句のようである。一見たんなるゴミ出しの風景や部屋の隅にゴミ箱があるというだけの様子に見えるが、「暑い」という季語によるぶっきらぼうな繋ぎのあとに来るのは「今日から無職」という意表を突いたフレーズである。

無職というのは必ずしもネガティブな言葉ではない。長年勤め上げた仕事を退職した人も無職だし、転職などなんらかの変化に際して一時的に職がない状態も無職であると言える。そのはずだが、掲句においてはゴミという語の強烈な印象とうだるような暑さがどうしても読者をネガティブな読みへと誘導する。この場合の無職は選択的なものというより、職を「失った」というニュアンスが正確だろう。

予期せぬ形で職を失った場合、おそらくはじめに脳裡を支配する感情は「焦燥」だろう。次の職を探さなければ、それまで貯金は保つだろうか……といった生活に対する不安である。いっぽう掲句に独特のドロっとした時間の流れは焦燥というよりむしろ、諦念のようなものを感じさせる。おそらく、無職になるという経験は今回が初めてではないのだろう。職の喪失を川の流れのごとくに受け入れる姿にはある種の風格すら漂っているが、これが零細労働者としての最後のプライドのようなものによってもたらされているのだとしたら、なんとも切ないシーンである。

細村星一郎


【執筆者プロフィール】
細村星一郎(ほそむら・せいいちろう)
2000年生。第16回鬼貫青春俳句大賞。Webサイト「巨大」管理人。



【細村星一郎のバックナンバー】
>>〔104〕交番前を黒い頭の頭 平田修
>>〔103〕余り苗吹かれて暮れる足の跡 平田修
>>〔102〕余り笛吹かれて暮れる足の跡 平田修
>>〔101〕あらかじめのぼくの闇へ優子がそんなこんなとは 平田修
>>〔100〕草にむせ返る傷の傷痛む 平田修
>>〔99〕黒々と腹這い避妊具と遊ぶ 平田修
>>〔98〕からっぽのからっぽ草むしりして土星 平田修
>>〔97〕ブランコが暗い暗いはいってゆく 平田修
>>〔96〕魚の骨部屋は朝からのっぺらに 平田修
>>〔95〕腸が煮えてるアジアのさくらかな 平田修
>>〔94〕椿目にいっぱい散らかしさあ殺せ 平田
>>〔93〕うごかないながらもうごきだしてゐし 板倉ケンタ
>>〔92〕冷たい水の天辺で鵙騒ぐ 平田修
>>〔91〕くら病めば冷たい水の水六畳 平田修
>>〔90〕咬み合わぬ畳に冬がなだれこむ 平田修
>>〔89〕いろいろなあそびがあそぶことがいい 小玉美和
>>〔88〕ひっぱられ朝から黒く突堤に 平田修
>>〔87〕熟し柿のはるか個人が黒くなる 平田修
>>〔86〕露けき日白痴がわあっと泣き出した 平田修
>>〔85〕捨てに来た自身の鯖がよく光る 平田修
>>〔84〕糞尿車の前後離れてる木星 平田修
>>〔83〕さくらまんかいのマイクロホンだけど自慰 平田修
>>〔82〕甘ったれが倒れる いちめん 蓬 平田修
>>〔81〕絶海の木立ちとあらば縊死思う 平田修
>>〔80〕いちご腐りつ 仏壇 海とひかりあう  平田修
>>〔79〕ひとりしていたら蛍降って来た 平田修
>>〔78〕夕焼へ中晴れていて泣けてたり 平田修
>>〔77〕みどりから四十九灯し出しにけり 平田修
>>〔76〕私を殺やめずに来て夏野原 平田修
>>〔75〕ひと葉からふた葉へぼくを解いてたり 平田修
>>〔74〕骨良しとした私春へ足 平田修
>>〔73〕蓬から我が白痴出て遊びけり 平田修
>>〔72〕五体ほど良く流れさくら見えて来た 平田修
>>〔71〕星が生まれる魚が生まれるはやさかな 大石雄介
>>〔70〕秋や秋や晴れて出ているぼく恐い 平田修
>>〔69〕天に地に鶺鴒の尾の触れずあり 本間まどか
>>〔68〕ここを梅とし淵の淵にて晴れている 平田修
>>〔67〕無職快晴のトンボ今日どこへ行こう 平田修
>>〔66〕我が霜におどろきながら四十九へ 平田修
>>〔65〕空蟬より俺寒くこわれ出ていたり 平田修
>>〔64〕換気しながら元気な梅でいる 平田修
>>〔63〕あじさいの枯れとひとつにし秋へと入る 平田修
>>〔62〕夕日へとふいとかけ出す青虫でいたり 平田修
>>〔61〕葉の中に混ぜてもらって点ってる 平田修
>>〔60〕あじさいの水の頭を出し闇になる私 平田修
>>〔59〕螢火へ言わんとしたら湿って何も出なかった 平田修
>>〔58〕海豚の子上陸すな〜パンツないぞ 小林健一郎
>>〔57〕夏の月あの貧乏人どうしてるかな 平田修
>>〔56〕逃げの悲しみおぼえ梅くもらせる 平田修
>>〔55〕春の山からしあわせと今何か言った様だ 平田修
>>〔54〕ぼく駄馬だけど一応春へ快走中 平田修
>>〔53〕人體は穴だ穴だと種を蒔くよ 大石雄介
>>〔52〕木枯らしや飯を許され沁みている 平田修
>>〔51〕ひまわりの種喰べ晴れるは冗談冗談 平田修
>>〔50〕腸にけじめの木枯らし喰らうなり 平田修
>>〔49〕木枯らしの葉の四十八となりぎりぎりでいる 平田修
>>〔48〕どん底の芒の日常寝るだけでいる 平田修
>>〔47〕私ごと抜けば大空の秋近い 平田修
>>〔46〕百合の香へすうと刺さってしまいけり 平田修
>>〔45〕はつ夏の風なりいっしょに橋を渡るなり 平田修
>>〔44〕歯にひばり寺町あたりぐるぐるする 平田修
>>〔43〕糞小便の蛆なり俺は春遠い 平田修
>>〔42〕ひまわりを咲かせて淋しとはどういうこと 平田修
>>〔41〕前すっぽと抜けて体ごと桃咲く気分 平田修
>>〔40〕青空の蓬の中に白痴見る 平田修
>>〔39〕さくらへ目が行くだけのまた今年 平田修
>>〔38〕まくら木枯らし木枯らしとなってとむらえる 平田修
>>〔37〕木枯らしのこの葉のいちまいでいる 平田修
>>〔36〕十二から冬へ落っこちてそれっきり 平田修
>>〔35〕死に体にするはずが芒を帰る 平田修
>>〔34〕冬の日へ曳かれちくしょうちくしょうこんちくしょう
>>〔33〕切り株に目しんしんと入ってった 平田修
>>〔32〕木枯らし俺の中から出るも又木枯らし 平田修
>>〔31〕日の綿に座れば無職のひとりもいい 平田修
>>〔30〕冬前にして四十五曲げた川赤い 平田修
>>〔29〕俺の血が根っこでつながる寒い川 平田修
>>〔28〕六畳葉っぱの死ねない唇の元気 平田修
>>〔27〕かがみ込めば冷たい水の水六畳 平田修
>>〔26〕青空の黒い少年入ってゆく 平田修
>>〔25〕握れば冷たい個人の鍵と富士宮 平田修
>>〔24〕生まれて来たか九月に近い空の色 平田修
>>〔23〕身の奥の奥に蛍を詰めてゆく 平田修
>>〔22〕芥回収ひしめくひしめく楽アヒル 平田修
>>〔21〕裁判所金魚一匹しかをらず 菅波祐太
>>〔20〕えんえんと僕の素性の八月へ 平田修
>>〔19〕まなぶたを薄くめくった海がある 平田修
>>〔18〕夏まっさかり俺さかさまに家離る 平田修
>>〔17〕純粋な水が死に水花杏 平田修
>>〔16〕かなしみへけん命になる螢でいる 平田修
>>〔15〕七月へ爪はひづめとして育つ 宮崎大地
>>〔14〕指さして七夕竹をこはがる子 阿部青鞋
>>〔13〕鵺一羽はばたきおらん裏銀河 安井浩司
>>〔12〕坂道をおりる呪術なんかないさ 下村槐太
>>〔11〕妹に告げきて燃える海泳ぐ 郡山淳一
>>〔10〕すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる 阿部完市
>>〔9〕性あらき郡上の鮎を釣り上げて 飴山實
>>〔8〕蛇を知らぬ天才とゐて風の中 鈴木六林男
>>〔7〕白馬の白き睫毛や霧深し 小澤青柚子
>>〔6〕煌々と渇き渚・渚をずりゆく艾 赤尾兜子
>>〔5〕かんぱちも乗せて離島の連絡船 西池みどり
>>〔4〕古池やにとんだ蛙で蜘蛛るTELかな 加藤郁乎
>>〔3〕銀座明るし針の踵で歩かねば 八木三日女
>>〔2〕象の足しづかに上る重たさよ 島津亮
>>〔1〕三角形の 黒の物体オブジェの 裏側の雨 富沢赤黄男


関連記事