ハイクノミカタ

飛んでゐる蝶にいつより蜂の影 中西夕紀【季語=蝶・蜂(春)】


飛んでゐるにいつより蜂の影

中西夕紀

夜中に暑くて暑くて、しかもゴーゴー音がして寝苦しい。

音は多分線路で工事しているんだろうと思っていた。(寝ている部屋のすぐ傍が線路で、時々夜中に工事する)

それにしても暑い。夢の中でも暑がっている。

面倒だが、ちゃんと目を覚まして部屋の電気をつけてみると、エアコンの暖房がついている!

ええ?

年間を通してほとんどエアコンは使わないし、特に暖房の方はものすごく寒い時にちょっとつけるくらいで、ましてや寝ているときにつけるはずがない。

リモコンも遠くにあるし、手が当たるとかありそうにない。

何故エアコンがついた?

ぞぞっとしながら消したら静かになった。

この頃おかしなこと、不思議なことがよく起こる。

飛んでゐる蝶にいつより蜂の影
中西夕紀

怖い句だ。「飛んでゐる」蝶の羽ばたきはせわしなく、そっと近づきつつある蜂はかなりゆっくりな動き。何が怖いって「いつより」なのがぞっとする。気づかない内になのだから。この先蝶はきっと襲われるだろうことを予想させつつのこの時間の静けさ。

杉山久子


【執筆者プロフィール】
杉山久子(すぎやま・ひさこ)
平成元年より作句。第2回芝不器男俳句新人賞受賞。句集『栞』他4冊。紀行文集『行かねばなるまい』

早くから才能を発揮し、芝不器男俳句新人賞、山口県芸術文化振興奨励賞に続き、前作『泉』では第1回姨捨俳句大賞を受賞した著者。宇宙の中の一存在として詠み、しなやかで独創的な感性が煌めく注目の第四句集。

◆帯より

冬星につなぎとめたき小舟あり

過ぎてゆく日常に栞をはさむように句を作っているのかもしれないと、少し前から感じるようになった。
言葉にならないけれど言葉を取り巻くもの、言葉と言葉のあわいにあるものの輝きも、ともに受け取り、味わってゆきたい。(杉山久子

1997年7月~1999年4月、
月刊俳句新聞『子規新報』に連載された
「お遍路は風まかせ」が書籍化!

興味本位からスタートした
ドタバタ四国遍路紀行……

180ページの本書の下端両角には
表紙画も担当した流水彩子のパラパラ漫画付き。
装丁は律川エレキ。


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



【2024年4月の火曜日☆阪西敦子のバックナンバー】
>>〔119〕初花や竹の奥より朝日かげ    川端茅舎
>>〔120〕東風を負ひ東風にむかひて相離る   三宅清三郎
>>〔121〕朝寝楽し障子と壺と白ければ   三宅清三郎

【2024年4月の水曜日☆杉山久子のバックナンバー】
>>〔1〕麗しき春の七曜またはじまる 山口誓子
>>〔2〕白魚の目に哀願の二つ三つ 田村葉
>>〔3〕無駄足も無駄骨もある苗木市 仲寒蟬

【2024年4月の木曜日☆杉山久子のバックナンバー】
>>〔1〕なにがなし善きこと言はな復活祭 野澤節子

【2024年3月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】
>>〔14〕芹と名がつく賑やかな娘が走る 中村梨々
>>〔15〕一瞬にしてみな遺品雲の峰 櫂未知子
>>〔16〕牡丹ていっくに蕪村ずること二三片 加藤郁乎

【2024年3月の水曜日☆山岸由佳のバックナンバー】
>>〔5〕唐太の天ぞ垂れたり鰊群来 山口誓子
>>〔6〕少女才長け鶯の鳴き真似する  三橋鷹女
>>〔7〕金色の種まき赤児がささやくよ  寺田京子

【2024年3月の木曜日☆板倉ケンタのバックナンバー】
>>〔6〕祈るべき天と思えど天の病む 石牟礼道子
>>〔7〕吾も春の野に下りたてば紫に 星野立子

【2024年2月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】
>>〔10〕足跡が足跡を踏む雪野かな 鈴木牛後
>>〔11〕父の手に負へぬ夜泣きや夏の月 吉田哲二
>>〔12〕トラックに早春を積み引越しす 柊月子
>>〔13〕故郷のすすしの陰や春の雪 原石鼎

【2024年2月の水曜日☆山岸由佳のバックナンバー】
>>〔1〕雪折を振り返ることしかできず 瀬間陽子
>>〔2〕虎の上に虎乗る春や筥いじり 永田耕衣
>>〔3〕人のかほ描かれてゐたる巣箱かな 藤原暢子
>>〔4〕とぼしくて大きくて野の春ともし 鷲谷七菜子

【2024年2月の木曜日☆板倉ケンタのバックナンバー】
>>〔1〕寒卵良い学校へゆくために 岩田奎
>>〔2〕泥に降る雪うつくしや泥になる 小川軽舟
>>〔3〕時計屋の時計春の夜どれがほんと 久保田万太郎
>>〔4〕屋根替の屋根に鎌刺し餉へ下りぬ 大熊光汰
>>〔5〕誰も口にせぬ流氷の向かうの地 塩崎帆高

【2024年1月の火曜日☆土井探花のバックナンバー】
>>〔5〕初夢のあとアボカドの種まんまる 神野紗希
>>〔6〕許したい許したい真っ青な毛糸 神野紗希
>>〔7〕海外のニュースの河馬が泣いていた 木田智美
>>〔8〕最終回みたいな街に鯨来る 斎藤よひら
>>〔9〕くしゃみしてポラリス逃す銀河売り 市川桜子

【2024年1月の木曜日☆浅川芳直のバックナンバー】
>>〔5〕いつよりも長く頭を下げ初詣 八木澤高原
>>〔6〕冬蟹に尿ればどつと裏返る 只野柯舟
>>〔7〕わが腕は翼風花抱き受け 世古諏訪
>>〔8〕室咲きをきりきり締めて届きたり 蓬田紀枝子


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. いちじくはジャムにあなたは元カレに 塩見恵介【季語=いちじく(秋…
  2. ゑんまさまきつといい子になりまする 西野文代【季語=閻魔詣(夏)…
  3. 浅草をはづれはづれず酉の市 松岡ひでたか【季語=酉の市(冬)】
  4. 目薬に涼しく秋を知る日かな 内藤鳴雪【季語=秋(秋)】
  5. 夏痩せて瞳に塹壕をゑがき得ざる 三橋鷹女【季語=夏痩(夏)】
  6. 瀧壺を離れし水に歩を合はす 藤木倶子【季語=滝(夏)】
  7. 肉声をこしらへてゐる秋の隕石 飯島晴子【季語=秋(秋)】
  8. 帰農記にうかと木の芽の黄を忘ず 細谷源二【季語=木の芽(春)】

おすすめ記事

  1. 幻影の春泥に投げ出されし靴 星野立子【季語=春泥(春)】
  2. 【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2023年12月分】
  3. 春は曙そろそろ帰つてくれないか 櫂未知子【季語=春(春)】
  4. 澤龜の萬歳見せう御國ぶり 正岡子規【季語=萬歳(新年)】
  5. 年迎ふ父に胆石できたまま 島崎寛永【季語=年迎ふ(新年)】 
  6. 南海多感に物象定か獺祭忌 中村草田男【季語=獺祭忌(秋)】
  7. 老人になるまで育ち初あられ 遠山陽子【季語=初霰(冬)】
  8. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第34回】鎌倉と星野立子
  9. 江の島の賑やかな日の仔猫かな 遠藤由樹子【季語=仔猫(春)】
  10. 【冬の季語】節分会

Pickup記事

  1. 【#25】写真の音、匂い
  2. 【クラファン目標達成記念!】神保町に銀漢亭があったころリターンズ【3】/武田花果(「銀漢」「春耕」同人)
  3. 蟭螟の羽ばたきに空うごきけり 岡田一実【季語=蟭螟(夏)】
  4. 象の足しづかに上る重たさよ 島津亮
  5. 置替へて大朝顔の濃紫 川島奇北【季語=朝顔(秋)】
  6. 【冬の季語】枯芝
  7. 「野崎海芋のたべる歳時記」ガレット・デ・ロワ
  8. 【秋の季語】梨
  9. 【春の季語】啓蟄
  10. 【夏の季語】蟇
PAGE TOP