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冬銀河旅鞄より流れ出す 坂本宮尾【季語=冬銀河(冬)】


冬銀河旅鞄より流れ出す

坂本宮尾


〈冬銀河〉は冴え冴えとした冬の夜空にかかる天の川。「銀河」は、七夕の伝説にゆかりがあることや、秋に一番明るく見えることから秋の季語とされているため、〈冬〉とつけて季節を定めている。寒い大気の中で仰ぐ星の帯は、秋とは違った独特の美しさを持つ。

「銀河」は前述のようにそれ自体が秋の季語ではあるが、一年中見ることのできる星の帯。面白いことに「春銀河」や「夏銀河」という季語は、筆者の知る限りではネットで見つけた一件を除いて、歳時記には無く、俳句の実作としても数は少ない。それに比べて、なぜ〈冬銀河〉は季語として確かな存在感を持つのだろう。

それはおそらく、万物が生命力に溢れる春や夏と違い、草木は枯れ、動物の活動が静まる冬であるからこそ、変わらずに現れるその輝かしい姿が、人を惹きつけるからなのではないだろうか。

〈冬銀河〉の魅力を手にとるように見せてくれるのが掲句。

冬銀河旅鞄より流れ出す

それは、想像力という名の魔法が効いているから。それもとびきり極上の。そんな掲句の紡ぎ出す世界はまるで童話のようにファンタスティック。そしてそれは、読者の想像力も揺り起こしてくれる。

はーっ
かじかむ手を息で温めて

旅人が鞄を開くと、冬の夜空いっぱいに銀河が流れ出しました

キラキラシャラシャラシュリルリルルルル

想像力が創造する冬の夜の素敵な旅はまだまだ続く。

「木馬の螺子」  (角川書店、2005年)

月野ぽぽな


【お知らせ】
月野ぽぽなさんの夫でありピアニストの木川貴幸Taka Kigawaさんのピアノリサイタルが、在ニューヨーク日本国総領事館主催で開催されます! リンク先(Facebook)からライブストリームを「無料」で視聴できますので、ぜひご覧ください。

【日時】12月19日(土)午前7時(日本時間)開演
 (日本時間ではの時間帯になりますので、ご注意ください!
  下記のフライヤーの日時は、ニューヨーク時間になります

【プログラム】
  ドビュッシー:版画
  ショパン:プレリュード 嬰ハ短調 作品45
  ショパン:バラード第1番ト短調 作品23
  ショパン:ポロネーズ第6番変イ長調 作品53(英雄)
  武満徹:雨の樹素描 II
  ベートーベン:ソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27-2「幻想曲風ソナタ』(月光)

【会場】こちら(↓)の画像をクリックすると、Facebookの「会場」にリンクします! みなさまのお越しをお待ちしております!


【執筆者プロフィール】
月野ぽぽな(つきの・ぽぽな)
1965年長野県生まれ。1992年より米国ニューヨーク市在住。2004年金子兜太主宰「海程」入会、2008年から終刊まで同人。2018年「海原」創刊同人。「豆の木」「青い地球」「ふらっと」同人。星の島句会代表。現代俳句協会会員。2010年第28回現代俳句新人賞、2017年第63回角川俳句賞受賞。
月野ぽぽなフェイスブック:http://www.facebook.com/PoponaTsukino


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