朝寝楽し障子と壺と白ければ
三宅清三郎
桜のころも、貴重な9回の執筆も、大切な時間は過ぎやすく…、なんて、3回目から遅れてすみません。前なら休ませてもらってしまうところですが、貴重な1回、遅れても書かせてください。前回に引き続き三宅清三郎の句。
朝寝楽し障子と壺と白ければ
過ぎる時間の大切さを感じつつ成立するものと言えば、朝寝はそのひとつ。それにしても、なぜ、朝寝は春の季題なのだろう。
気候のいい春の朝は起きて布団から出たらきっと有意義に過ごせるし、出かけたって楽しいはずだけれど、この起きない時間をずるずる引き延ばすのと、どちらがどのくらい心地がいいのか、決めかねるところだ。
壺と障子は布団から見えている景色。床の間に置かれているのかもしれない、低い視点からぼんやりとめにはいる2つの色の配置。障子の白さはもちろん、壺の白さも、もともと白いものに、外の明るさが届き始めているのだろう。この外の気持ちのよさ、起きて行動することの得がわかっていればわかっているほど、それをせずにいる朝寝がより楽しいというのは、合理的ではないけれど、とてもわかるところ。
動けばいいに決まっていることを先延ばしにしてこその、とどまることの楽しさは、見過ごされがちだけれど、とても大事な時間の使い方だ。というのは、怠惰でなかなか動き出せない側の人間の言い訳だろうか。さっさと床を上げて先へ進める人に大きな尊敬と憧れを抱きながら、それでも可能なかぎりとどまっていたいのだ。いずれにしてもそこから出てゆかなければならない時が、ほとんどは来てしまうのだから。
などと言いながら、ぐずぐずと布団を出ないでいるのは、やはり春こそ。だからこそ、朝寝は春の季題なんだろう。
連休まであと10日、夏までも20日を切りました。
(阪西敦子)
【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。2024年4月、句集『金魚』を上梓。俳壇のサグラダ・ファミリア!
ついに刊行!!◆第一句集
ラガーらの目に一瞬の空戻る
稲畑汀子の言葉として「見るから観るへ」というのがある。これはただ眺めるだけではなく、その奥にある季題の本質を探ることが大切であるという意味だが、まさにそれを実践した素晴らしい作品群である。
(跋より・稲畑廣太郎)
【阪西敦子のバックナンバー】
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>>〔106〕コスモスのゆれかはしゐて相うたず 鈴鹿野風呂
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>>〔101〕おやすみ
>>〔100〕おやすみ
>>〔99〕おやすみ
>>〔97〕七夕のあしたの町にちる色帋 麻田椎花
>>〔96〕大阪の屋根に入る日や金魚玉 大橋櫻坡子
>>〔95〕盥にあり夜振のえもの尾をまげて 柏崎夢香
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>>〔92〕思ひ沈む父や端居のいつまでも 石島雉子郎
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>>〔89〕船室の梅雨の鏡にうつし見る 日原方舟
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>>〔83〕春暁のカーテンひくと人たてり 久保ゐの吉
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>>〔81〕纐纈の大座布団や春の宵 真下喜太郎
>>〔80〕先生はいつもはるかや虚子忌来る 深見けん二
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>>〔75〕落椿とはとつぜんに華やげる 稲畑汀子
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>>〔73〕諸事情により、おやすみ
>>〔72〕春雪の一日が長し夜に逢ふ 山田弘子
>>〔71〕早春や松のぼりゆくよその猫 藤田春梢女
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>>〔68〕左義長のまた一ところ始まりぬ 三木
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>>〔57〕おやすみ
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>>〔51〕えりんぎはえりんぎ松茸は松茸 後藤比奈夫
>>〔50〕横ざまに高き空より菊の虻 歌原蒼苔
>>〔49〕秋の風互に人を怖れけり 永田青嵐
>>〔48〕蟷螂の怒りまろびて掃かれけり 田中王城
>>〔47〕手花火を左に移しさしまねく 成瀬正俊
>>〔46〕置替へて大朝顔の濃紫 川島奇北
>>〔45〕金魚すくふ腕にゆらめく水明り 千原草之
>>〔44〕愉快な彼巡査となつて帰省せり 千原草之
>>〔43〕炎天を山梨にいま来てをりて 千原草之
>>〔42〕ビール買ふ紙幣をにぎりて人かぞへ 京極杞陽
>>〔41〕フラミンゴ同士暑がつてはをらず 後藤比奈夫
>>〔40〕夕焼や答へぬベルを押して立つ 久保ゐの吉
>>〔39〕夾竹桃くらくなるまで語りけり 赤星水竹居
>>〔38〕父の日の父に甘えに来たらしき 後藤比奈夫
>>〔37〕麺麭摂るや夏めく卓の花蔬菜 飯田蛇笏
>>〔36〕あとからの蝶美しや花葵 岩木躑躅
>>〔35〕麦打の埃の中の花葵 本田あふひ
>>〔34〕麦秋や光なき海平らけく 上村占魚
>>〔33〕酒よろしさやゑんどうの味も好し 上村占魚
>>〔32〕除草機を押して出会うてまた別れ 越野孤舟
>>〔31〕大いなる春を惜しみつ家に在り 星野立子
>>〔30〕燈台に銘あり読みて春惜しむ 伊藤柏翠
>>〔29〕世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし
>>〔28〕ネックレスかすかに金や花を仰ぐ 今井千鶴子
>>〔27〕芽柳の傘擦る音の一寸の間 藤松遊子
>>〔26〕日の遊び風の遊べる花の中 後藤比奈夫
>>〔25〕見るうちに開き加はり初桜 深見けん二
>>〔24〕三月の又うつくしきカレンダー 下田実花
>>〔23〕雛納めせし日人形持ち歩く 千原草之
>>〔22〕九頭龍へ窓開け雛の塵払ふ 森田愛子
>>〔21〕梅の径用ありげなる人も行く 今井つる女
>>〔20〕来よ来よと梅の月ヶ瀬より電話 田畑美穂女
>>〔19〕梅ほつほつ人ごゑ遠きところより 深川正一郎
>>〔18〕藷たべてゐる子に何が好きかと問ふ 京極杞陽
>>〔17〕酒庫口のはき替え草履寒造 西山泊雲
>>〔16〕ラグビーのジヤケツの色の敵味方 福井圭児
>>〔15〕酒醸す色とは白や米その他 中井余花朗
>>〔14〕去年今年貫く棒の如きもの 高浜虚子
>>〔13〕この出遭ひこそクリスマスプレゼント 稲畑汀子
>>〔12〕蔓の先出てゐてまろし雪むぐら 野村泊月
>>〔11〕おでん屋の酒のよしあし言ひたもな 山口誓子
>>〔10〕ストーブに判をもらひに来て待てる 粟津松彩子
>>〔9〕コーヒーに誘ふ人あり銀杏散る 岩垣子鹿
>>〔8〕浅草をはづれはづれず酉の市 松岡ひでたか
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【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】