風邪ごもりかくし置きたる写真見る安田蚊杖【季語＝風邪籠（冬）】

ハイクノミカタ

風邪ごもりかくし置きたる写真見る安田蚊杖【季語＝風邪籠（冬）】

2022/12/9
ハイクノミカタ, 阪西敦子
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風邪ごもりかくし置きたる写真見る

安田蚊杖安田蚊杖(やすだ・ぶんじょう))

さあさあ、12月も3分の1が過ぎていきます。もう右往左往するばかりですが、そんなことしている暇もないのですよ。

新型コロナウイルス感染症の第8波がやってきた。身近にも少し感染の声が聞こえてきて、今年も穏やかな正月とはいかないようだ。インフルエンザも相まってという話もきくけれど、そもそも普通の風邪であっても、それらの疑いとなっていろんなことの妨げとなるので、本当に気が抜けない。年末に入れてある人間ドックも、一定期間にのどが痛くなったりすると延期しなくてはいけないらしく、すぐ風邪が喉に来る私にとって、それはかなり難易度の高いこと。

あたたかくして、乾燥しないようにして、栄養をとって、よく寝て、何よりストレスを感じないように。

そうそう、そのためには。

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安田蚊杖は明治29年、東京の生れ、東京府浅川というのは、今の八王子にある。農林業から身を起こし、農科へ、東京府のお役人となったのち、安田系の銀行員となる。

その銀行員たる蚊杖が風邪なのか、あるいは家族か。いくつかの解釈が可能だ。自分が風邪をひいて、自分が隠してとっておいた写真を眺める図、あるいは、風邪をひいた誰かが、わたし、または別の誰かが隠しておいた写真を見ているという図。

自分が隠していたとして、自分はそのことを知っているわけだから、どちらかといえば後者、風邪でこもっている人物と、写真を隠していた人物は別のようだ。

どんな写真かはわからないけれど、風邪で苦しんでおとなしくしているかと思えば、内緒にしていた写真なんて見て、なんだか楽しそうだ。なんだかすこしうらやましい。

ストレスなく暮らすのが一番風邪にはいいわけだから、別に咎められることでもないのだけれど、「病人はおとなしくしていなさい」の裏にある、いたわりとは少し違う、風邪ごもりを羨む気持ちがうっすら透けて見えないだろうか。

小さい頃はよく風邪を引いた。いや、今だって引くが会社を休むほどでないだけなのだけれど、とにかく、そんなときにクラスメートが書いて届けてくれたお見舞いの寄せ書きは、外の世界を羨ましがらせつつ、やさしげな言葉でわたしを病人の世界に押し出し、それでもこちらに対してもわずかの羨ましさのある複雑な綱引きだった。

そんな風邪のたのしさとうしろめたさの交わりをこの蚊杖の句は鮮やかに描き出す。

さあ、週末はさらに冷えるそうだ。残りの日々を大切に。

『ホトトギス同人句集』（1938年）

（阪西敦子）

【執筆者プロフィール】
阪西敦子（さかにし・あつこ）
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。

【阪西敦子のバックナンバー】

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＞＞〔113〕つはの葉につもりし雪の裂けてあり     加賀谷凡秋
＞＞〔112〕毛帽子をかなぐりすててのゝしれる     三木朱城
＞＞〔111〕牡蠣舟やレストーランの灯をかぶり      大岡龍男
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＞＞〔106〕コスモスのゆれかはしゐて相うたず      鈴鹿野風呂
＞＞〔105〕淋しさに鹿も起ちたる馬酔木かな      山本梅史
＞＞〔104〕蜩や久しぶりなる井の頭               柏崎夢香
＞＞〔103〕おやすみ
＞＞〔102〕月代は月となり灯は窓となる         竹下しづの女
＞＞〔101〕おやすみ
＞＞〔100〕おやすみ
＞＞〔99〕おやすみ
＞＞〔97〕七夕のあしたの町にちる色帋               麻田椎花
＞＞〔96〕大阪の屋根に入る日や金魚玉                 大橋櫻坡子
＞＞〔95〕盥にあり夜振のえもの尾をまげて          柏崎夢香
＞＞〔94〕行く涼し谷の向うの人も行く                  原石鼎
＞＞〔93〕山羊群れて夕立あとの水ほとり          江川三昧
＞＞〔92〕思ひ沈む父や端居のいつまでも             石島雉子郎
＞＞〔91〕麦藁を束ねる足をあてにけり                    奈良鹿郎
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＞＞〔89〕船室の梅雨の鏡にうつし見る　　　　　日原方舟
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＞＞〔81〕纐纈の大座布団や春の宵　　　　　　真下喜太郎