【木曜日】は2か月交代で〈大学俳句会〉のみなさんにご執筆いただいています。「北大俳句会えぞりす」からのバトンが渡ったのは福島大学俳句会。第5回は大塚久翔さんです。

十六夜や橋といふ橋衰へて
谷平寛治(開成B)
大塚久翔(福島大学俳句会)
私は今年の4月に福島大学俳句会に所属し、俳句を始めた。そして8月23日に、俳句甲子園にギャラリーとして来場した。「20週俳句入門」の16週目辺りにまで目を通し、取り合わせの際の切れ字や季語の基本的な使い方を知り始めたタイミングであった。今回は、第29回俳句甲子園にて詠まれた中から4句を挙げたい。
十六夜や橋といふ橋衰へて 谷平 寛治(開成B)
十六夜の下を歩いていると、普段よりも視覚は狭まり音も少なく、いつも以上に意識や感覚が向いてしまう。すると、今歩いている橋に蜘蛛の巣やちょっとした塗装の剥がれが目に入る。普段はわざわざ目に留めない程の僅かな時間経過の痕跡から、今渡っている橋も、遠くに見える立派な橋も今まさに衰え続けているのだと気づいた。
十六夜も、一目見て満月と見分けがつくかと言えば怪しい。大きさも明るさも殆ど満月と変わらないのだ。しかし、昨日よりも確実に欠けていて、新月へと光量は衰え続けていく。
秋思なり糊を昇っている気泡 敗者復活戦(高崎女子A)
学校の机の上に乗っている液体糊、気泡が動くならば使った直後なのだろう。授業中に先生の指示でプリントを糊付けし、次の指示や授業の続きが始まるまでの間、気泡をぼんやり眺めている。秋思という季語は強いため、日常的でなんてことのない光景である中七下五との組み合わせがぴったり組み合っている。糊や気泡のもつ輪郭のなさという要素も、季語とよく繋がっており、柔らかな印象を強めている。
印象的なのは、断定の「なり」だと思った。秋思、糊、気泡という存在感の淡い、じんわりとした言葉が多く使われている句は自分なら全体がぼやけてしまうに違いない。「なり」のお陰で引き締まり、韻文らしい、口に出したくなる句にしているのだと思った。
色鳥やクレープと食う包み紙 長谷川実奈(洗足学園A)
主体はクレープを食べている。果物やホイップの豊富な、カラフルで包み紙がフィットする太さがあるずっしりとしたクレープ。一面の青ではなく、絵に描くような僅かに雲のある空の下で、暑くも寒くもないアスファルトの道を歩きながら食べていて欲しい。この句を目にした時、私は配合がどのような連想を掻き立てているのかを言語化出来ていないが、確かに繋がりを感じることができた。この句は雰囲気も詠んでいるのだと思った。日常の範囲内で幸せな記憶が、この句を見ると思い返せた。私は配合の句が、2つの物を用いて情景を広げる為にあるのだと思っていた。しかしこの句を通して、2つの異なる言葉の内包する要素を絞ることで、詠みたい物にピントを合わせ、作者が洗いざらい説明せずに読者に自然な追体験をさせる技法と認識した。
玉黍や州の境のまっすぐに 淺田麟太郎(海城A)
私がこの俳句を読み感じた景は、日本の屋内だった。夏休み、茹でた玉蜀黍を食べながら社会科目の勉強をしている学生だ。玉蜀黍を食べながらの勉強は、必死に向き合っているとは言い難い。だからこそ、アメリカの州境との共通点をはっと気づくだけの余裕があったのだろう。
アメリカの州境は人工的な直線があるものの、所々は山や川に沿われた不規則な部分もある。玉蜀黍の粒の並びも完全に真っ直ぐではなく、ガタガタとした並びや、ねじれ状の並びが見える。人為的だからこその直線と、自然由来の直線が違和感なく重なっていてとても綺麗だと思った。
俳句を始めて半年も経たない自分が、福島県から愛媛県へと二泊。行って得るものはあるのかという不安はあった。しかし思い返せば、これまで知らなかった俳句への熱を通して自分の理解を助けてくれる貴重な機会だった。好奇心に身を任せて俳句を始め、俳句甲子園を見に行って本当に良かった。これからも、句会や投句には臆せず挑戦し、もっと様々な俳句を楽しめるようになりたい。
(大塚久翔)
【サークルプロフィール】
福島大学俳句会
2025年11月発足。立ち上げ人代表・金光舞、副代表・石川尖晶、顧問・高橋由貴准教授。毎週金曜日の活動。月に一度は季語を体感することを大切にしており、5月・しゃぼん大会、6月・ゼリーを食べる会、7月・流しそうめん大会を実施。9月に実施した一泊二日の夏合宿では句会が3時間に及びたいへんな盛り上がりをみせた。3ヶ月に一回程度のペースで吟行も行っている。さらに、福島大学の出張講座のなかに初心者向け俳句講座を設けており、湯本や飯坂、楢葉など福島県全域を対象に俳句を教える活動にも取り組んでいる。インスタグラムでは毎日季語を紹介する投稿を続けており、ニッチな人気を誇る。
現在、会員は17名であり、福島大学に通う学生に限定し、会員を募集中。今年11月7日には福島大学俳句会機関誌「栖(すみか)」の創刊号が刊行予定となっており、40名近くが関わる大きなプロジェクトになっている。
【執筆者プロフィール】
大塚久翔(おおつか・ひさと)
平成19年生まれ、栃木県出身。福島大学経済経営学類1年。福島大学俳句会所属。