ハイクノミカタ

婿は見えたり見えなかつたり桔梗畑 飯島晴子【季語=桔梗(秋)】


婿は見えたり見えなかつたり桔梗畑)

飯島晴子

 咲き満ちた何本もの桔梗の間から婿を見ている。作中主体は畑の中に、婿は畑の外にいる。これはもっと一般的には内界と外界ということも出来るかもしれない。家の内外、身体の内外、心の内外。婿というものを確かに外界に置きながら、それを揺らぐ存在として捉えているのである。

 〈気が変りやすくて蕪畠にゐる〉〈難儀な思ひしてゐる藍の葉のなかで〉という句もあるが、やはり畑の内側というのは、外側とは対照的に、揺らぎが少なく、様々なものが滞る場所なのだと思う。晴子俳句は活動的で外向的のように見えるが、これは、自然と内界へ内界へ向かう意識と張り合うためなのかもしれない。以前、晴子俳句の「待つ」姿勢について言及したが、これはやはり、内界からの引力と、外界に対する注意深さとが、平衡を保った状態であろう。考えてみれば、掲句において、桔梗畑の中でじっと婿を待つという状態は、きわめて緊張度が高い。

 〈大人になるとにんじん畠にゐなくなる〉の「大人になる」は、本当の大人というよりも、子供時代を抜け出したばかりという感じがしないだろうか。揺らぎの多い外界へと身を任せるエネルギーが十分にある時期だ。さらに成長すると、晴子の姿勢のごとく、内界から外界にアンテナを張ってじっと待つのではないかと思う。

 畑が内界の象徴であるとして、何の畑かということがもたらす効果は、句ごとに検討しなければならない。桔梗の場合、一つ一つの花は輪郭がしっかりしているにも関わらず、葉の印象からか、あるいはそれぞれの花が色々な方向を向いているからか、全体の印象としては淡い。野菜のようにぴしっと列をなすでもなく、かといってコスモスほどの淡さでもない。質量を保ちながらもそれなりの柔らかさがあり、婿を待ち構えるにはちょうど良い畑かもしれない。

 もう少し考えを進めたいが、何だか頭が回らず、またの機会に必ず。

小山玄紀


【執筆者プロフィール】
小山玄紀(こやま・げんき)
平成九年大阪生。櫂未知子・佐藤郁良に師事、「群青」同人。第六回星野立子新人賞、第六回俳句四季新人賞。句集に『ぼうぶら』。俳人協会会員


小山玄紀さんの句集『ぼうぶら』(2022年)はこちら↓】


【小山玄紀のバックナンバー】
>>〔23〕白萩を押してゆく身のぬくさかな 飯島晴子
>>〔22〕露草を持つて銀行に入つてゆく 飯島晴子
>>〔21〕怒濤聞くかたはら秋の蠅叩   飯島晴子
>>〔20〕葛の花こぼれやすくて親匿され 飯島晴子
>>〔19〕瀧見人子を先だてて来りけり  飯島晴子
>>〔18〕未草ひらく跫音淡々と     飯島晴子
>>〔17〕本州の最北端の氷旗      飯島晴子
>>〔16〕細長き泉に着きぬ父と子と   飯島晴子
>>〔15〕この人のうしろおびただしき螢 飯島晴子
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>>〔6〕日光に底力つく桐の花     飯島晴子
>>〔5〕気を強く春の円座に坐つてゐる 飯島晴子
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>>〔3〕人とゆく野にうぐひすの貌強き 飯島晴子
>>〔2〕やつと大きい茶籠といつしよに眠らされ 飯島晴子
>>〔1〕幼子の手の腥き春の空   飯島晴子


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