本州の最北端の氷旗
飯島晴子
晴子逝去前年、長女と下北半島を巡った際の句。その旅程には実際に大間崎も含まれていた。本州のある種の顔として北国の夏の光にはためくこの氷旗は、たくましくも寂しい。たまたま本州最北端にある氷店の旗である。何かの象徴のようで、何の象徴でもない。北側に遮るもののない開放感がよい。
そしてその氷旗のもとへくる晴子の確かな足取りが感じられるのである。〈氷水これくらゐにして安達ヶ原〉はその二十年以上前の作であるが、この句もどこか、力強い足取りで遠くへ連れて行ってくれそうなところがある。
(小山玄紀)
【執筆者プロフィール】
小山玄紀(こやま・げんき)
平成九年大阪生。櫂未知子・佐藤郁良に師事、「群青」同人。第六回星野立子新人賞、第六回俳句四季新人賞。句集に『ぼうぶら』。俳人協会会員
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【小山玄紀のバックナンバー】
>>〔16〕細長き泉に着きぬ父と子と 飯島晴子
>>〔15〕この人のうしろおびただしき螢 飯島晴子
>>〔14〕軽き咳して夏葱の刻を過ぐ 飯島晴子
>>〔13〕螢とび疑ひぶかき親の箸 飯島晴子
>>〔12〕黒揚羽に当てられてゐる軀かな 飯島晴子
>>〔11〕叩頭すあやめあざやかなる方へ 飯島晴子
>>〔10〕家毀し瀧曼荼羅を下げておく 飯島晴子
>>〔9〕卯月野にうすき枕を並べけり 飯島晴子
>>〔8〕筍にくらき畳の敷かれあり 飯島晴子
>>〔7〕口中のくらきおもひの更衣 飯島晴子
>>〔6〕日光に底力つく桐の花 飯島晴子
>>〔5〕気を強く春の円座に坐つてゐる 飯島晴子
>>〔4〕遅れて着く花粉まみれの人喰沼 飯島晴子
>>〔3〕人とゆく野にうぐひすの貌強き 飯島晴子
>>〔2〕やつと大きい茶籠といつしよに眠らされ 飯島晴子
>>〔1〕幼子の手の腥き春の空 飯島晴子
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