【最終回】今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子【季語=春(冬)】


今日何も彼もなにもかもらしく

稲畑汀子

今日、12月27日は御用納である。来年の正月三ヶ日が週末にかかるため、12月28日から1月5日まで九連休という方も多いのではないだろうか。2024年は元旦から能登半島を震源とする大地震が発生し、時と場所を選ばない自然災害に緊張する年明けだったが、2025年は穏やかな年始を迎えたいと切に思う。

今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子

掲句は、ホトトギスの前主宰稲畑汀子が昭和26年(1951年)に高浜虚子選「朝日俳壇」に初入選した句である。この句は今でも人気があり、ほぼ毎回、『稲畑汀子俳句集成』読書会で視聴者人気投票の一句に選ばれている。掲句の鑑賞は多種多様であるが、私は作者の素直な気持ちをそのまま十七音に詠んだ句だと思う。「何も彼も」「なにもかも」の漢字と平仮名の併用、上五中七を句またがりにすることで、不均一の調べによる春の軽やかなリズムを感じる。また、梅の蕾を見つけたとか、風が穏やかに吹き始めたなど読み込まれてはいないが、万物皆春らしくなってきたことを素直に喜んでいる。しかし、私のような俳句初級者がこのような句を作ったとすると、恐らくもっと対象物を見て写生するように、もしくは対象物を絞り込むようにと指導を受けるかもしれない。ただ、掲句は対象物を観察した結果、目に見えるもの全てが春らしいと大局的に捉え、その結果、最も素直で新鮮な俳句になっていると感じる。

さて、次回の第12回『稲畑汀子俳句集成』読書会は2025年1月26日(日)17時からオンライン配信される。今回のテーマは「旅」、野分会の新旧メンバー8人が登壇する。今回が最後の読書会になり、塚本武州も出演するのでお時間があれば是非ご視聴をお願いします。

今回、塚本武州のハイクノミカタは100回目となり、キリがいいところで充電期間に入ります。2023年1月にホトトギス同人の阪西敦子より引き継ぎ、本日まで丸二年間ほぼ休みなく、毎週金曜日に拙い文章を書いてきました。今まで読んで頂きどうもありがとうございました。来年から筆者が変わりますが、引き続き読んで頂けたら幸いです。

最後に、このような機会を与えてくれた管理人の堀切克洋様に厚くお礼を申し上げます。

塚本武州



【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。国立市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。



【塚本武州のバックナンバー】
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>>〔98〕京なれやまして祇園の事始 水野白川
>>〔97〕山眠る細き蛇口のサモワール 満田春日
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>>〔95〕ある朝の冠雪富士の一部見ゆ 池田秀水
>>〔94〕菰巻いて松は翁となりにけり 大石悦子
>>〔93〕海に出て木枯帰るところなし 山口誓子
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>>〔91〕野分会十とせ経しこと年尾の忌 稲畑汀子
>>〔90〕麻薬うてば十三夜月遁走す 石田波郷
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